深夜食堂 

 



2009年に放送がスタートし、深夜枠ながら人気を博したTVシリーズを映画化した『深夜食堂』(15)。新宿にある「めしや」は“深夜食堂”と呼ばれ、マスター(小林薫)を取り巻く常連客や、ふらっとやってくる珍客との人情味あふれる会話や微笑ましいやりとりが見もの。

メニューには豚汁定食と、ビール、酒、焼酎のみ。マスターは「できるものなら作るよ」という営業方針で、客の要望に応じてタコ足ウインナーや甘い玉子焼き、お茶漬けなど、様々な夜食や酒の肴を出してくれる。ドラマ同様、映画版でも、まずネオン煌めく新宿の街並が映し出され、路地裏の「めしや」へ。マスターが豚バラを炒め、野菜、だし汁を入れて煮込み、味噌を溶く…そんな豚汁作りから幕が開く。



■「ナポリタン」

 パトロンの旦那と死別したお妾さんのたまこ(高岡早紀)の愚痴に付き合っているうちに腹が減ったマスターは、自分用のまかないとしてスパゲティナポリタンを作り始める。

 それを見た彼女はステーキのような熱々の鉄板プレートの上にスパゲティを乗せ、その下に卵を流し入れてオムレツ風にしたナポリタンを注文する。これは彼女が小さい頃にデパートの食堂で食べたハレの食事「イタリアン」であった。スパゲティ嫌いのパトロンに遠慮して食べていなかった懐かしい味を堪能した彼女は、次の恋へと踏み出す。偶然隣の席に居合わせたはじめ(柄本時生)とナポリタンがきっかけで意気投合し、二人は結婚を前提に付き合い始めるのだが……。
 

■「ととろろご飯」

 新潟県糸魚川市の親不知から上京したものの同郷の男・長谷川(渋川清彦)に金をだまし取られてネットカフェ難民となったみちる(多部未華子)が店にやって来る。彼女はとろろご飯を頼むが、時間がかかると知ると早く出来るものを全部注文する。裏でとろろご飯を炊いていたマスターが戻ると、彼女は消えていた。

 翌朝、みちるが戻って来てマスターに謝罪し、代金は働いて返しますと言う。右手の具合を悪くしていたマスターは、治るまでという約束で空いている2階を彼女に貸して住み込みで働かせてやることにする。彼女が徐々に仕事に慣れ、持ち前の料理の腕を発揮し始めた頃、マスターの手は直り、長谷川が食堂にやって来る……。

 すったもんだの末、顔に一筋の大きな傷があるマスターの過去を知る新橋の料亭の女将・千恵子(余貴美子)のもとで板前として働くことになったみちるに、マスターは餞別に以前食べそこねたとろろご飯を作ってやる。七輪と土鍋でご飯を炊くところから始めるので時間と手間はかかるが、それだけの甲斐があることをみちるは知ったことだろう。
 

■「カレーライス」

 常連客の一人・サヤ(平田薫)の友人であるOLのあけみ(菊池亜希子)の顔色が冴えない。彼女はサヤと東日本大震災の被災地・福島の漁港にボランティアに通っていたのだが、津波で妻を失った漁師・謙三(筒井道隆)が善意を好意と勘違いしてプロポーズしてくるのに困惑し、ボランティアにも行けなくなっていた。彼女を追って上京して来た謙三は、あけみにプロポーズを断られてもよもぎ町界隈に居残り、ぼったくりバーでトラブルを起こす。身柄を引き取ったマスターが彼に出したのが「二日酔いによくきく」カレーライス。その味はあけみが炊き出しで作ってくれたものと同じだった……。