天空の蜂 






仕事にばかり熱中して、妻や息子との関係が芳しくない設計士湯島が主人公である。1995年の夏、自分の設計した自衛隊用の新型ヘリコプター、ビッグBを妻子に見せようと家族で基地を訪れた。湯島の息子は、勝手に施設をうろついてビッグBに誤って乗り込んでしまう。本来飛ぶはずのないビッグBだが、突然何者かにハイジャックされ、自動操縦のまま上空へと飛び立つ。自分の息子を乗せ、飛び立つビッグBを茫然と見上げる湯島と、半狂乱に泣き叫ぶ妻。

ビッグBは、そのまま原子力発電所「新陽」の真上でホバリングをし始める。ビッグBを操っている何者かは、「天空の蜂」という名で犯行声明を発表した。それは、日本全国の原子力発電所の稼働を止めないと、このビッグBを「新陽」に落とす、というものだった。

息子を助けるため、同じく設計者の三島と共に対策を考える湯島。ヘリに子供が乗ったままであることを知った犯人は、その救出作戦を明示すれば許可をするという。湯島の息子の救出作戦とともに、犯人の捜査が進められていく。捜査線上に浮かびあがったのは、元自衛隊員だった。

なんとか救出作戦は成功し、湯島の息子は助け出された。しかし、犯人として追い詰められた「雑賀」と名乗っていた元自衛隊員は、捜査官から逃れる最中にトラックにはねられなんと死亡してしまう。しかし、ホバリングを続けるビッグB。実は、真犯人はもう一人いて、それは湯島の同僚である三島だったのだ。

実は三島の息子は、原発開発者の息子、といういじめにあい、自殺していた。三島は逮捕されるが、ビッグBの操縦にはもう介入できないよう手が施されていた。このままではビッグBの燃料が切れ、「新陽」に向かって墜落する。湯島は、ビッグBに可能な限り近づき、信号を送ることで一瞬だけビッグBの稼働を止め、墜落の軌道を変えるという決死の作戦を考案する。

自らがその作戦の実行に立候補し、別のヘリに乗り込んでビッグBに接近する湯島。無事、彼の作戦は功を奏し、ビッグBは「新陽」の近くの海へと墜落。しかし三島は「日本にはきっと、ビッグBが新陽に落ちておけばよかったと思う日が来る」と叫ぶのだった。

「子供は、刺されて初めて蜂の恐ろしさを知る。今度のことが教訓になることを祈る。ダイナマイトはいつも10本とは限らないのだ」という文字は、捜査員によって電源を落とされました。ファックス送信はなりませんでした。「本当に狂っているのは誰なのか、いつかお前は知ることになる」そう言った三島の言葉が、湯原の脳裏から離れませんでした。



…2011年3月13日。
高彦は成人になり、航空自衛隊のレスキュー隊の機長になっていました。東日本大震災の現場に赴いた高彦は、ボランティアで現地にいた父・湯原と会います。湯原は「昨日、三島が獄中で亡くなった」と告げました。「この国に命を賭ける覚悟はあるのか」という父・湯原の問いかけに、息子・高彦はモールス信号で胸を叩き「ココニアル」と答えました。