噓を愛する女







2011年3月11日、外出先で突然の震災に遭遇してしまった川原由加利(長澤まさみ)は、避難を急ぐ乗客の混雑の中で気分が悪くなり駅のホームで動けなくなってしまいます。しばらくすると一人の男性が優しい声で「大丈夫ですか?」と声をかけてくれます。その男性は介抱することに慣れている様子で優しく、そして手際よく由加利に指示を与え、その場で落ち着かせてくれました。

男性の名は小出桔平(高橋一生)という名の研修医で、このことをきっかけに由加利の部屋で生活を共にすることになります。
 

 
ある日、由加利が部屋に戻ると、桔平がネットでフィギュアの検索をしていました。見てみると既に部屋の中に飾られているフィギュアがあり、そてとほとんど同じに見えるものでした。由加利が「既に持ってるでしょ!」と桔平を制しますが「僕が欲しいのはこのサイズじゃないんだ。腕の部分ももっとこう――」と何やらそのフィギュアに深いこだわりがある様子でした。
 

 
ある日の夕食の場で由加利は近いうちに母と会う旨を桔平に告げ、桔平にも母に会ってほしいと依頼します。桔平が見るからに気が進まない様子ですが、しぶしぶ由加利の母に会うことを承諾します。
当日になり、由加利と由加利の母は喫茶店で桔平を待ちますが、桔平はとうとう現れませんでした。

深夜になっても戻らない桔平を待つ由加利が落ち着こうと部屋でタバコに火をつけようとしていると、部屋のチャイムがなります。桔平が戻ったと思った由加利はすごい勢いでドアを開け、「なんで来なかったの?」と怒鳴りつけますが、相手は桔平ではなく二人の警察官でした。
桔平がくも膜下出血で屋外で倒れてしまったことを知らされた由加利は警察官と共に桔平が眠る病院へ向かいます。
 

 
ことの経緯を聞かされる由加利でしたが、その際、小出桔平という名前、所持している身分証明書が全て偽造されたものである旨を告げられます。
さらに桔平の容態が悪く、ここ二週間が山で予断を許さない状況であることを医師に聞かされます。

部屋に戻った由加利は桔平の持ち物をあさり、桔平が勤めているであろう、病院の名札を発見します。それを持って、病院に行き看護師の女性に問い合わせますが、「そのような人はいない」との答え。
先日、由加利のもとを訪れた警察官の元へ行き、桔平の身元を調べてほしいと懇願しますが、「早いうちにわかって良かった」と相手にしてくれません。
 

 
出会いの時、高いヒールの靴を履いていた自分が歩いて会社に戻ることを知った桔平は、裸足になってしまうことも厭わず、履いていたスニーカーを由加利に差し出したことを思い出していました。
名前を聞いた由加利に「小出です。」と答えた桔平であったが、それは見上げると目に映るビルの名前であったことに今にして気づきます。

意を決した由加利は部屋に戻り、桔平の持ち物を処分しようとします。その際、桔平が大切にしていたフィギュアを見つけた由加利は、踏みつけてこわそうとしますが、逆に裸足の自身の足を痛め、再び桔平との生活を思い出します。

桔平のことが忘れられない由加利は親友の叔父にあたる探偵の海原匠(吉田鋼太郎)の元へ行き、桔平の身元調査を依頼します。
 


依頼を受けた海原は聞き込みを開始しますが、ある日、桔平が行きつけの喫茶店に勤め、桔平に思いを寄せるゴスロリファッションのストーカー心葉(川栄李奈)に出会います。

心葉の証言から桔平が使用していたパソコンを手に入れた海原と由加利はそのパソコンの中の桔平の手掛かりを探し始めます。

すると何かの日にちを表すパスワードに守られて700ページを超える書きかけの小説を発見します。
その小説にはある家族の幸せな生活が延々とつづられており、その大半が瀬戸内の灯台を舞台にしたものでした。海原のアシスタントの木村(DAIGO)はその小説を読み込み、小説の舞台になっている場所を丁寧に洗い出し地図にしるしていきます。

そんな折、「あなたは先生(桔平)のことを何も知らない」「あなたのせいで先生は倒れた」と心葉に罵られた由加利は小説の舞台になっている場所で手掛かりを探すため、瀬戸内へ行くことを決意し木村の作った地図を取ると、探偵事務所を飛び出します。



早速、瀬戸内に飛んだ由加利は夕食を取ろうと小さな居酒屋を訪問します。そこで現地の男性と意気投合しますが、溜まったストレスから飲みすぎて酔ってしまい、居酒屋で寝入ってしまいます。

――夢の中で桔平との思い出が蘇ります。
仕事での付き合いの飲み会で連日帰りの遅い由加利を心配する桔平は「そこまで頑張らなければならないの?」と問いかけるますが「死ぬほど働いたこともないくせに!」と逆に罵られてしまいます。

言葉を失った桔平は何も言わず由加利の部屋を飛び出します。慌てて後を追う由加利は公園のブランコで黄昏る桔平を見つけ隣のブランドに腰掛け、「子供を作るなら男の子がいい」と語りかけます。すると桔平の表情は暗くなり、「僕にはその資格がない」と一言つぶやきます。



そこで目が覚めた由加利を待っていたのは昨日意気投合した男性でした。男性は由加利が問い合わせていた桔平の手掛かりを思い出し知らせに来てくれたのでした。

手掛かりを得たもののここから先は自分一人では無理だと考えた由加利は探偵事務所に連絡し海原に応援を依頼します。

合流した海原と聞き込みを続ける由加利は、ある灯台で小説のシーンに登場したおもちゃを詰め込んだ缶を発見し、小説が桔平のリアルな生活であったことを確信し、さらに調査を続けます。

そしてついに二人は桔平が働いていたであろう漁業組合にたどり着き有力な手掛かりを得ますが、聞き込みを続ける中でなかなかゴールの見えない苛立ちから横暴なふるまいを続ける由加利に対し、海原は「あんたのような奴と五年も一緒に生活していた奴の気が知れない」吐き捨てるように言い残し、由加利を置いてその場を去ってしまいます。


 
途方に暮れながらも一人で聞き込みを続けていると次の聞き込み先で由加利を置き去りにした海原と再会、気まずそうに立ちすくむ由加利に対しそっと車のドアを開け、二人での捜査が再開します。

そしてとうとう桔平が由加利と知り合う直前に働いていた職場にたどり着きますが、当時『トシ』と呼ばれていた桔平のことを尋ねると、現在もトシと呼ばれる男性はそこで働いており、桔平に似た別人であったことを知り二人は落胆してしまいます。

諦めて途方に暮れる二人でしたが、桔平に似た男性から「震災の前の年に広島から警察が来て同じような質問を受けた」という証言を得ます。海原は事務所で待つ木村に対し、桔平が瀬戸内で生活していたであろう頃の広島の新聞から情報を模索することを指示し、由加利と共に広島へ向かいます。
 

広島への道中で木村から新聞記事が送られてきます。記事から桔平の本名は『安田公平』といい、本物の医師で結婚もしていたが、妻子が無理心中を図り二人とも亡くなってしまったことを知り、当時桔平の家族が暮らしていた家を訪れます。

そこで隣人から当時の様子を聞かされます。桔平は腕のいい外科医でしたが、常に忙しく月の半分以上、家を空けてしまう生活で家庭を顧みることがほとんどありませんでした。

生真面目な妻はその生活に耐えられなくなり、子供を溺死させてしまいます。家に帰った桔平が変わり果てた子供の姿を発見し、泣き崩れていると妻が家を飛び出し、家の前を通り過ぎようとする車に飛び込んでしまったという悲惨なものでした。


 
当時の様相そのまま残す家に入るとあの日から時間が止まっているように見えます。そこで二人は家族の写真を発見しますが、そこに写っていた子供の姿は小説に登場した男の子ではなく、かわいい女の子でした。

小説と実際の家族構成の違いに違和感を持った海原はあることに気づきます。そして、突然由加利に近づき由加利の耳の後ろほくろがあることを確認し、やはり小説のモデルが由加利であったと確信し、その旨を由加利に伝えます。そして、実際とは違う小説の中の男の子は由加利が望んでいた桔平との未来だったのでした。


 
桔平の思いを知った由加利は泣き崩れますが、すぐに立ち直り東京へ飛んで帰ってしまいます。病院に到着した由加利は、今まで仕事ばかりで桔平にかまってあげられなかったことを詫びて、これから二人でしたいことを必死に桔平に語り掛けますが桔平が答えることはありませんでした。

月日が流れ気候もよくなったある日、病院では桔平のひげを上手に剃り終わった由加利の姿があります。心地よい春の日差しを感じていると、突然病室に風が吹き抜け、ふと桔平の様子を伺うと、今まで動くことのなかった桔平が目を覚まします。