今度は愛妻家 

 

A Good Hasband 



かつては売れっ子のカメラマンとして名も実力もあったが、今はロクに仕事もせずにぐうたらな毎日を送っている北見俊介。女性に甘く、気ままに生きる典型的な駄目亭主だ。大の健康マニアの妻さくらは、そんな夫に文句を言いながらも何くれとなく世話をやいている。クリスマス直前に、半ば強引に連れていかれた子作りのための沖縄旅行から1年後、相変わらず、だらけた毎日を過ごす俊介は、なぜか一枚も写真を撮ることができない。


ある日、友達と箱根旅行に行く間際に準備にあたふたとするさくらは、いつものように軽口をたたく俊介に、『子供を作る気がないなら、別れて』と悲しげな表情で告げる。いつもと違うさくらの態度に、なんとか応えその場を乗り切るが、二人の関係は以前とは微妙に違っていた。

いつまで経ってもさくらは旅行から帰って来ない。始めは独身生活を楽しんでいた俊介だったが、次第にさくらがいない生活に苛立ち始める。近所で洋品店を営むユリを飲みに誘うもさくらが気になり自らやめてしまう始末。ぼんやりと過ごす俊介を不安げな様子で見つめる誠と北見家に出入りする世話焼きのオカマの文太。蘭子の妊娠騒動が起こる一方で、俊介はさくらを訪ねてやってきた西田という青年の存在が気になっていた。

そこへ突然帰宅したさくらは『一年前から好きな人がいる』と告白し、離婚記念に写真を撮って欲しいとお願いする。さくらの言葉に俊介は一年ぶりにカメラを手にし写真を撮り始める……。

『ねぇ、写真撮ってよ。』一年前の沖縄旅行で言われた同じ言葉を思い出す俊介。喧嘩が絶えなかったけれど穏やかで楽しかった夫婦生活がどこでどう狂ってしまったのか? 愛して結婚したはずなのに、いつの間にか素直になれなくなっていた日々。いなくなってみて初めてさくらの存在の大きさに気付く俊介。

俊介は、自宅の暗室で離婚記念写真の現像をしています。作業をしながら、1年前の沖縄旅行の事を考えていました。


ー沖縄旅行ー
俊介とさくらは、宿泊先のホテルに向かう船の上にいます。さくらは、旅行中はケンカはしないでおこうと俊介へお願いします。しかし、旅行中の俊介の態度は最悪でした。綺麗な海や星空を二人で一緒に見て、同じ時間を共有したいさくらの気持ちをことごとく無視します。

外食にでかける二人。さくらはヘビースモーカーの俊介を気遣い、きちんと食事をするように伝えます。「お前に関係ないだろ、俺の健康なんて」と俊介は口にします。その言葉を聞いたさくらは、泣きながら俊介へ別れを切り出します。もう限界だと---。

離婚を決断したさくらは、海が目前に広がる場所で歌を歌っています。俊介に秘密でカメラを持ってきていたさくらは、離婚記念に、写真を撮ってくれと頼みます。その時、さくらはホテルに結婚指輪を忘れた事に気づきます。結婚指輪をはめて写真に写りたいと彼女は言い、ホテルへと指輪を取りに走り出します。俊介は、さくらのその後ろ姿を写真に撮ります。

カメラを触りながら、俊介はホテルから戻ってこないさくらを待ちわびています。その時、俊介の目の前を1台の救急車がサイレンを鳴らし走っていきます。嫌な予感がして、救急車の後を俊介は走り追いかけます。サトウキビが両側に生い茂る畑道の先に出ると、事故の処理のためパトカーが止まっています。そして、救急車は誰かを乗せ出発した直後でした。振り返ると、道路に生々しい血痕の跡があり、そこにはさくらの靴が片方落ちていたのでした…。


 
----フィルムの現像作業を進める俊介でしたが、写真を現像液に浸しても、どの写真にもさくらの姿は写っておらず、リビングや庭の映像だけが浮き上がってきます。すると、次の写真には、どこかへ走っていくさくらのうしろ姿の映像が浮かび上がってきました。

俊介は、暗室から出て2階へ上がっていきます。寝室のドアをあけると、出ていったはずのさくらが腰かけていました。「本当に出ていったと思った?びっくりした?」とさくらは笑顔で言いました。
神妙な顔をしながら、俊介はさくらの隣りに座り、「お前さあ、なんで死んじゃったの」と問いかけます。

俊介とさくらは手をつなぎながら、近所を散歩しています。さくらの姿が見えているのは、俊介だけでした。後ろ姿のさくらの写真は、俊介がさくらの事を撮った最後の1枚だったのです。さくらは、1年前の沖縄旅行で交通事故で亡くなってしまっていたのでした。