-岩柱・悲鳴嶼行冥-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 



悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)は鬼殺隊最高位たる“柱”、その中心を担う隊士。極めた全集中の呼吸の流派に従い、「岩柱」の称号を持つ。

初登場時から瞳孔のない白金で描かれており、盲目である事が後に本人の口から明かされる。これは彼が赤ん坊の時に高熱を出して、失明した為である。

目が不自由であるのにも関わらず、あまりにも感覚が鋭い為に、本当は見えているのではないかと一部の人からは怖がられたりする事もしばしばあった。



― 柱 稽 古 ―

【原作】16巻135話「悲鳴嶼行冥」

刀鍛冶の里の戦いの後、柱による訓練『柱稽古』が行われることになり、炭治郎は悲鳴嶼の元を訪れる。

訓練をやり遂げたが、その疲労で死にそうになっている炭治郎の元に悲鳴嶼が現れて水を与える。その時、悲鳴嶼は刀鍛冶の里で妹よりも鬼を倒す事を優先したとして、「岩の訓練も達成した。それに加えて里での正しき行動。私は君を認める…。」と告げた。

しかし、炭治郎は「いいえ違います。決断したのは禰豆子であって俺ではありません。俺は決断ができず、危うく里の人が死ぬ所でした。」と正直に告げた。それを聞いた悲鳴嶼の脳裏には「子供というのは、純粋無垢で弱く、すぐ嘘をつき、残酷なことを平気でする我欲の塊だ。」という考えがあった。

そして炭治郎を見て「誰が何と言おうと私は君を認める」と言う。炭治郎その理由を問うと、悲鳴嶼は自身の過去の話をし始めた。

悲鳴嶼は身寄りのない子供たちと暮らしていた。そんなある日、一人の子供が鬼に襲われ、自身が助かる為に悲鳴嶼と子供達の情報を鬼に教えた。襲撃を受けた悲鳴嶼は一人の女の子をなんとか守り通した。しかし、その子供は「みんなあの人が、みんな殺した」と証言し、悲鳴嶼は投獄されることになった。

保身のために嘘をつくことがない炭治郎を悲鳴嶼は認めたのだ。
悲鳴嶼の過去の話を聞いて泣く炭治郎の頭を悲鳴嶼は撫でる。炭治郎は子供のように「へへへ」と笑った。その時、悲鳴嶼の脳裏には守り通した子供と以前の自身の姿があった。

【原作】16巻139話「落ちる」

産屋敷耀哉は無惨がやってくることを予見していた。産屋敷耀哉は自身の命を餌に、無惨を罠にはめる計画を悲鳴嶼に話した。

そしてその産屋敷耀哉が予見していた通り、無惨は産屋敷邸を襲撃した。耀哉は爆弾を仕込んでおり、自身や妻もろとも無惨を爆破に巻き込んだ。それにより無惨は体の大部分を損傷した。

そこに無惨に敵対する鬼・珠世が現れる。珠世は耀哉と手を組み、無惨を倒そうとしていた。耀哉は無惨に鬼を人間にする薬を投与した。

そしてそこに悲鳴嶼が姿を表す。悲鳴嶼は爆弾により大きく体を損傷している無惨の頸を落とす。しかし、無惨は頸を落とされても死なず、殺すには日光で焼くしかなかった。そこに騒ぎを聞きつけた柱や炭治郎たちが現れ、無惨を討とうとする。

しかし、無惨は異空間・無限城を出現させ、一同を無限城に落とした。



―無限城で上弦の壱・黒死牟との戦い―

【原作】19巻169話「地鳴る」
無限城に入った悲鳴嶼は霞柱の時透無一郎と行動を共にしていたが、時透とはぐれてしまう。その後、上弦の壱である黒死牟と戦っていた風柱・不死川実弥の応援に駆けつけた。
→19巻164話「ちょっと力み過ぎただけ」

悲鳴嶼の体を『透き通る世界』で見た黒死牟は「素晴らしい…極限まで練り上げられた肉体の完成形…。これ程の剣士を拝むのは…それこそ三百年振りか…。」と賞賛した。

悲鳴嶼はその巨体では考えられないほど速く、時透や実弥を圧倒した黒死牟と渡り合う。鉄の純度が高く、陽の光をよく浴びた日輪刀の鎖で黒死牟の刀を切断する。しかし、黒死牟の本体には傷を負わせられず、『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』で傷を負う。

すると悲鳴嶼は「これは…無惨の時まで温存しておきたかったが、ここで負けては元の木阿弥。今使うも止む無し!」と言い、痣を発現させた。

【原作】20巻173話「匪石之心が開く道」
~178話「手を伸ばしても手を伸ばしても」

その後、不死川実弥、時透無一郎と協力して黒死牟と戦うが、黒死牟は『透き通る世界』により動きを察知しており、悲鳴嶼は技を出すこともできなかった。その状況に悲鳴嶼は違和感を感じ、黒死牟を注視する。その時、悲鳴嶼は『透き通る世界』に入り、黒死牟が同様の光景を目にしている事に気づく。悲鳴嶼はわざと血の巡りを狂わせて黒死牟を騙し、鉄球を当てる事に成功した。この攻撃で、胸から右腕を吹き飛ばした。

脚を切り落とされながらも黒死牟に喰らいつく時透と、黒死牟の髪と刀を喰らって血鬼術を使用できるようになった玄弥のお陰で、黒死牟は動きを封じられる。黒死牟は体中から無数に刀を出現させて一度は拘束を解くが、死力を振り絞った時透と玄弥によって再び動きを封じられる。その隙を突き、悲鳴嶼は実弥と協力して黒死牟の頸を落とすことに成功する。



―無惨との死闘―

【原作】21巻185話「匂いのない世界」
~22巻189話「心強い仲間」

その後、悲鳴嶼は実弥と共に無惨と闘っている柱の元へ現れて加勢する。無惨は鬼を人間にする薬を分解していた。

無惨の攻撃は更に苛烈になり、柱たちは防戦一方だった。無惨の攻撃が速すぎるため、悲鳴嶼は『透き通る世界』で見ることもできないでいた。戦いの中で甘露寺は重傷を負って戦線離脱してしまう。無惨は身体に多数存在する口から吸息を行い、敵を引き寄せていた。甘露寺が攻撃を受けたのもこの吸息のせいだった。

圧倒的な攻撃範囲と速度に柱たちは圧倒され、疲労困憊となっていた。更に無惨の攻撃を受けた者は無惨の血を注入され、死ぬのも時間の問題だった。夜明けまでは一時間十四分もあったが、柱たちは五分も経たずに命が尽きようとしていた。

その時、一匹の猫が現れ、背中から注射のようなものを射出した。それが刺さった柱たちは細胞の変化が治った。注射の中に入っていたのは珠世が作った無惨の血の血清だった。それにより柱たちは再び戦えるようになった。

【原作】22巻190話「ぞくぞくと」~191話「どちらが鬼か」
そして戦いの中で伊黒が赫刀を顕現させ、更に善逸・伊之助・カナヲが増援に現れる。人数が増えた事により無惨の攻撃は分散された。悲鳴嶼はその隙をついて自身の日輪刀の鉄球と斧を衝突させた。すると焼けるような匂いと熱が生じ、悲鳴嶼の日輪刀は赫刀へと変わった。悲鳴嶼は鉄球で無惨の一部を抉った。

多少の余裕が出来た悲鳴嶼は『透き通る世界』で無惨の身体を透かして見た。そして無惨が複数の脳と心臓を持っているのを目にし、頸を斬り落としても死なない理由を知った。

悲鳴嶼は「私と同じく透かして感知できる者がいれば。さらに十二か所同時に攻撃できれば…!」と考え「伊黒ー!体を注視しろ!見え方が変わらないか?他の者でもいい!体が透けて見えないか!」と叫んだ。

しかし、次の瞬間、轟音と大きな振動を起こし無惨は攻撃を仕掛けた。柱や善逸たちは無惨の攻撃により重傷を負わされた。悲鳴嶼は善逸や伊之助を庇った事で左足を斬り落とされて失神していた。

【原作】22巻192話「廻る縁」~23巻198話「気付けば」
その後、意識を取り戻した炭治郎が無惨と戦い、そこに伊黒、善逸、伊之助も加わる。

珠世が無惨に投与した薬は『鬼を人間にする』だけではなく、『老化』『分裂阻害』『細胞破壊』の効力があり、無惨は体力の限界を迎えつつあった。薬の効力に気づいた無惨は一目散に逃げ出そうとするが、炭治郎たちが休む事なく攻撃を加え続ける。

炭治郎は日輪刀を無惨に突き刺して壁に押し当て、さらに甘露寺、伊黒、実弥が無惨の動きを封じた。

【原作】23巻199話「千年の夜明け」
その時、遂に夜が明ける。
夜明けの到来を知った無惨は強烈な衝撃波を放った。伊黒や実弥は吹き飛ばされるが、炭治郎は片腕を失いながらも踏みとどまっていた。炭治郎が日輪刀を赫刀に変えようとしていると背後に義勇が現れ、共に刀を握って赫刀を顕現させた。無惨は吐血しつつも、日光から自身の肉体を守るために肉の鎧によって瞬時に膨れ上がり、巨大な赤ん坊の姿になった。炭治郎はその赤ん坊の肉に呑まれてしまう。

赤ん坊が日に灼かれながらも逃亡しようとする中、生き残っていた鬼殺隊の隊士や柱たちは逃亡を阻止するために赤ん坊に攻撃を繰り出す。意識を取り戻した悲鳴嶼は赤ん坊の首に鎖を回し、鬼殺隊の隊士達と一緒になって鎖を引っ張った。赤ん坊を引き倒すことには成功するものの、赤ん坊は鎖を引きちぎって地中に逃げ込もうとする。その時、赤ん坊に呑まれていた炭治郎が日輪刀を握った。すると赤ん坊は血を流して絶叫し、日に灼かれて消え去った。

【原作】23巻200話「勝利の代償」
鬼殺隊の面々は歓喜の声をあげた。
そしてその後すぐ負傷者の治療が始まった。
悲鳴嶼は「よせ。薬を使うな。私は手遅れだ。貴重な薬を溝に捨てることになる。他の若者達の所へ行ってくれ。頼む。私の最後の願いだ。」と力なく話した。

その時、悲鳴嶼にはかつて自身が面倒を見ていた子供たちの姿が浮かび上がる。

子供たちは――
「先生、あの日のことを私たちずっと謝りたかったの。先生を傷つけたよね?」

「でも俺たち逃げようとしたんじゃないんだよ。先生は目が見えないから守らなきゃと思って。武器を取りに行こうとしたんだ。外に農具があったから。」

「私は人を呼びに行こうとしたの。」

「獪岳を追い出したこともごめんなさい。だけど理由があるの。嘘じゃないよ。」

「いつもどおりまた明日が来ればちゃんと話もできたのに。本当にごめんなさい。」と言って涙を流した。
悲鳴嶼は「私の方こそお前たちを守ってやれず…すまなかった…。」と涙ながらに話した。

子供たちが「謝らないで。みんな先生が大好きだよ。だからずっと待ってたの。」と言うと、悲鳴嶼は「そうか…ありがとう…。じゃあ行こう…皆で…行こう…。」と返し、息を引き取った。



-悲鳴嶼行冥の過去-
 
彼の父親は流行り病で亡くなり、母親は出産の時に亡くなった為、身寄りがなく寺育ちだった。

かつて、彼はとある寺に住み、盲人の身ながら、孤児を引き取って育てて暮らしていた。そんな時、日が暮れる前に寺に戻るという言いつけを聞かなかった孤児の一人が、鬼と山中で遭遇する。だがその子供は、事もあろうに自分が助かるために命乞いをし、自身の代わりに悲鳴嶼と寺の子供たちを差し出してしまう。
鬼と取引したその子供は、夜になると普段は鬼がお堂の中に入ってこれないようにするために焚いていた鬼が嫌う藤の花のお香を消し、中に簡単に入れるよう手引きした。

四人の子がたちまち殺される。異変に気づいて残る四人の子供を守ろうと、必死になって自分の側を離れない様に訴える悲鳴嶼だったが、そんな彼の言葉を聞いたのは一番幼い沙代という女の子だけであり、それ以外の子供達は悲鳴嶼の言葉を無視して、「目の見えぬ大人など当てにはならぬ」とばかり逃げ出した末に、鬼に喉を掻き切られて死んでしまった。

そうして最後に残ったのは悲鳴嶼と沙代だけだったが、そこで彼は生まれて初めて『守る為に戦い』、呼吸も何も使わない素手の力だけで鬼を殴り殺し、自分の強さを初めて自覚する。盲目のために今までそのような機会がなかっただけで、彼の中には恐るべき力が眠っていたのだった。
こうして初めて鬼を殺し、沙代だけは守り切った悲鳴嶼であるが、事が全て終わり夜も明けた後に駆けつけた人々に、今まで悲鳴嶼に守られていたその沙代は無情にも、「あの人は化け物 みんなあの人が みんな殺した」と証言したのである。

恐怖で錯乱しての言葉とはいえ、鬼の屍は太陽の光を浴びて塵となって消えており、子供達の惨殺死体だけが残されていたとあっては、悲鳴嶼の弁明を信じる者など誰もいない。彼の決死の行動は全てに裏目に出てしまい、彼は死刑囚になってしまう。

そんな時に鬼殺隊のお館様である産屋敷耀哉に出会い、産屋敷の力によって死刑囚の身の上からも解放されて鬼殺隊に誘われ、柱となったのだった。
慈悲の心を持ちながらも、一方的かつ独善的に見える態度はこの過去に起因する。

しかし、最後に自分を裏切った沙代の事も「あの緊迫した状況の中で気が動転してしまったが故の行動であろう」「子供はいつも自分のことで手一杯だ」と擁護もしており、ショックで上手く話せない為に誤解される言い方しかできなかった事は悲鳴嶼も分かっている模様。それでも彼は「せめて沙代にだけは、ありがとうと言って欲しかった」「その一言さえあれば救われた」と述懐している。
なお、【原作】16巻135話「悲鳴嶼行冥」巻末にて「沙代の話」として、彼女の真意が補足されている。
「あの人は化け物、みんな殺した」というのは寺に侵入した鬼を指しており、決して悲鳴嶼が仲間を殺したなどとは思っていなかった。しかし真犯人である鬼の死体は消滅し、沙代はショックでまともに話せなくなってしまったため、周囲の大人は悲鳴嶼が殺したかのように解釈してしまったのである。

ただ、仮に犯人は鬼だと言っても惨劇を目の当たりにして気が触れたか、悲鳴嶼を庇っていると思われ結局有罪になった可能性が高い。
沙代は十四歳になった今でも、不本意にも悲鳴嶼に濡れ衣を着せてしまう形になってしまった事を悔いており、謝りたいと思っているのだという。
そして容姿や身につけている勾玉等の共通点から前々から疑われていたが、【原作】17巻144話「受け継ぐ者たち」にて案の定寺に鬼を招き寄せたのは善逸の兄弟子の獪岳である事が明かされた。因みに獪岳はいいつけを破って夜に出歩いていたのではなく、寺の金を盗んだことを他の子供達に責め立てられ追い出されたというのが真相である。

子供達は彼を気を揉ませまいとしたのか保護者に相談もなく追い出した後ろめたさからか、獪岳は寝ていると嘘を吐き、悲鳴嶼は目が見えないこともあって鬼に言われるまで獪岳がいない事に気づかなかった。