-岩柱・伊黒小芭内-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 


伊黒小芭内(いぐろおばない)は鬼殺隊の隊士の一人。。極めた全集中の呼吸の流派に従い、「蛇柱」の称号を持つ。

白と黒の縞模様の羽織を着て、口元には包帯を巻いている。肩には『鏑丸』という名の蛇を這わせている。左右の眼の色が異なっている。無惨との戦いで右眼は生まれつき弱視であり、ほとんど見えていないことが明らかになった。
鏑丸は鬼の攻撃を読んで伊黒に伝える事ができる。その察知能力は高く、無惨の攻撃にも対応することが可能。口元に包帯を巻いているのは――鬼によって斬り裂かれた口を隠すためである。

無惨との戦いで痣を発現させた。伊黒の痣は蛇のような形で、左腕に現れた。また、時透が赫刀を顕現させた時の状況から日輪刀を赫刀に変える条件を導き出し、赫刀を出すことに成功した。

炭治郎が鬼となった禰豆子を連れていたことが議題となった柱合会議で初登場となった。風柱の不死川実弥が禰豆子を傷つけて、鬼としての本性を暴こうとする。炭治郎はそれを阻止しようとするが、伊黒はその炭治郎を力づくで押さえつけた。




―鬼舞辻無惨との戦い―
~無限城編~

【原作】16巻137話「不滅」~139話「落ちる」
鬼殺隊の長である産屋敷耀哉の元へ、悪の元凶である鬼舞辻無惨が現れる。耀哉は無惨の到来を予期しており、自爆をする事で無惨に大きなダメージを与えた。

無惨と敵対する鬼、珠世と愈史郎は耀哉に協力を持ちかけられており、鬼殺隊の本部へと来ていた。珠世は負傷した無惨に『鬼を人間に戻す薬』を投与する。

そして無惨を倒すべく柱や炭治郎が集結するが、無惨は異空間・無限城を呼び出し、一同は無限城へと落とされてしまう。

【原作】19巻164話「ちょっと力み過ぎただけ」
21巻181話「大災」~184話「鬩ぎ合い」

伊黒は甘露寺と共に無限城を進んでいた。その先で上弦の肆である鳴女と遭遇し、戦いを始める。鳴女は無限城を自在に操る力を持っていた。それにより、伊黒と甘露寺は鳴女へ攻撃ができないでいた。

そこへ、鬼殺隊へ協力する鬼・愈史郎と出会う。愈史郎は伊黒と甘露寺に囮になるように言い、鳴女の背後に忍び寄った。そして鳴女の頭に指を突き刺し、鳴女を操った。伊黒と甘露寺は、『鬼を人間に戻す薬』を分解して冨岡義勇と炭治郎と戦う無惨の元へと向かった。

炭治郎は無惨に左目を潰され、命の危機にあった。そんな炭治郎を伊黒は救出する。無惨は伊黒たちが現れた事により鳴女が愈史郎に操られている事に気付いた。

愈史郎は鳴女を操って無限城を操作し、無惨を地上に出そうとしていた。無惨は鳴女と繋がっている愈史郎の細胞を侵食して殺害しようとするが、伊黒や義勇がそれを妨害した。そして愈史郎は無惨を地上に出す事に成功した。

【原作】21巻184話「戦線離脱」~22巻188話「悲痛な恋情」
地上に出てからも伊黒たちは無惨との戦いを続けた。その時、炭治郎の身体に異変が起きる。炭治郎は無惨の攻撃を受けた時に血を入れられていた。無惨の血は人間には猛毒であり、炭治郎は細胞が変化して死の危険にあった。

伊黒たちは炭治郎が戦線離脱した後も戦いを続けた。そこへ岩柱の悲鳴嶼行冥と風柱の不死川実弥が現れる。

柱が集結しても無惨の苛烈な攻撃は収まることがなく、甘露寺が重傷を負ってしまう。伊黒は負傷した甘露寺を近くにいた鬼殺隊に預け、医療術を持っている愈史郎を探すように伝えた。

しかし甘露寺は「待って。私まだ戦える。今度は足を引っ張らないようにするから」と食い下がった。伊黒は「もういい。十分やった」と伝えて戦いに戻った。その時、甘露寺は「待って!私も行く!伊黒さん!伊黒さん嫌だ!死なないで!もう誰にも死んでほしくないよォ!」と泣いた。

それを背で聞いた伊黒は「鬼が、鬼なんてものがこの世に存在しなければ、一体どれだけの人が死なずに済んだだろうか。もし君(甘露寺のこと)と何気ない日常で出会うことができていたらどんなに良かっただろう。いや、無理だな俺は。
まず一度死んでから汚い血が流れる肉体ごと取り替えなければ。君の傍らにいることすら憚られる。甘露寺、俺は人を殺して私腹を肥やす汚い血族の人間なんだよ。強奪した金で屋敷を構え、飯を食らい、する必要もない贅沢をする。恥を恥とも思わない。業突く張りで見栄っ張りの醜い一族。
→「伊黒小芭内の過去

無惨を倒して死にたい。どうかそれで俺の汚い血が浄化されるよう願う。鬼のいない平和な世界でもう一度人間に生まれ変われたら、今度は必ず君に好きだと伝える」という思いを抱いていた。

【原作】22巻189話「心強い仲間」
戦いに戻った伊黒だったが、戦況は良くなかった。無惨の身体中にある口は攻撃の際に凄まじい吸い込みをする事で攻撃対象を引き寄せていた。その為に大きく回避する必要があり、体力を余計に消費させられた。

また、無惨の攻撃を受けた事で無惨の血を入れられ、細胞が変化を始めていた。それは伊黒だけではなく、他の柱たちも同じ状況だった。その時、珠世の猫が現れ、柱たちに注射のような物を突き刺した。それは無惨の血に対する血清だった。それにより柱たちは一時的に細胞が元に戻った。

伊黒は自分だけが戦果を挙げていない事に不甲斐なさを感じていた。その時、伊黒は時透が赫刀を出した時のことを思い返した。その時の状況から時透が赫刀を出した時に出来た行動は刀を握り締めることだけだと推理した。

【原作】22巻190話「ぞくぞくと」~191話「どちらが鬼か」
その時、伊黒の左手には蛇のような痣が浮かんでいた。伊黒は渾身の力で日輪刀を握りしめ、赫刀を顕現させる事に成功した。

その直後、伊黒の脳裏に浮かんだのは後悔の念だった。伊黒は全ての力を握力に使ったことで酸欠になり、戦闘の最中に失神しかけていた。伊黒は「一人抜けたら他の者の負担が増える。無惨の攻撃を分散できない。しっかりしろ。甘露寺の分も戦う俺が」と心に思うが、手以外の感覚がなく動くことができなかった。

義勇は無惨の攻撃から伊黒を守ろうとするが、間に合わなかった。しかし、伊黒は宙を舞って攻撃を避けていた。無惨は宙にいる伊黒を攻撃するが、それも伊黒は躱した。伊黒は愈史郎の札を貼り付けた事で姿を消した善逸・伊之助・カナヲに救われていた。

更に人数が増えたことにより、無惨の攻撃は更に分散された。伊黒はその隙をついて無惨の腕を斬り落とした。無惨はすぐさま身体を再生させようとするが、赫刀で斬られた箇所は明らかに再生速度が落ちていた。

他の柱たちも赫刀を顕現させ、一同は無惨と善戦していた。伊黒は「伊黒ー!体を注視しろ!見え方が変わらないか?他の者でもいい!体が透けて見えないか!」と悲鳴嶼から呼びかけられる。無惨の身体を注視した伊黒は『透き通る世界』により無惨の身体を透かして見る事が出来た。その時、無惨が轟音と振動を起こしながら攻撃を仕掛ける。伊黒は一瞬のうちに気絶させられた。

【原作】22巻191話「どちらが鬼か」~194話「灼熱の傷」
柱たちが気絶した後、無惨は意識を取り戻した炭治郎と戦っていた。炭治郎は戦いの中で酸欠を起こし、決定的な隙をつくってしまう。無惨はその隙に炭治郎に攻撃を仕掛けるが、それを伊黒が助ける。

伊黒は無惨の攻撃により顔を斬り裂かれ、両目を潰されていた。炭治郎が「伊黒さん両目が…!俺を庇ったせいで!」と言うと、伊黒は「違う!もっと前にやられた!お前は人のことばかりうるさい!」と返した。

そして炭治郎が両目を潰された伊黒をサポートしようとすると、伊黒は「お前の介添えなど必要ない。俺には鏑丸がついてる」と話した。
無惨は伊黒を倒すべく攻撃を仕掛けてくるが、伊黒は鏑丸に攻撃を察知してもらうことでそれを避けることができた。

【原作】22巻195話「めまぐるしく」
実は珠世が無惨に投与した薬には『鬼を人間に戻す』以外にも『老化』『分裂阻害』『細胞破壊』という効力があった。無惨は自身が疲弊していることに気づく。さらに突如として無惨の身体に無数の傷跡が浮かび上がる。それは縁壱と戦った時の傷だった。縁壱の攻撃は今でも無惨の細胞を灼き続けていたのだった。

その時、鎹烏が「夜明ケマデ四十分!」と叫ぶ。それを聞いた無惨が炭治郎と伊黒を残して逃走を始めると、伊黒は「そうだ当然だ。無惨は誇りを持った侍でもなければ、感情で行動する人間でもない。無惨は生きることだけに固執している生命体。夜明けも近く命が脅かされれば逃亡することにも一切の抵抗がない」と理解した。

一目散に逃げる無惨に対し、炭治郎は周辺に転がっている日輪刀を投げつけて動きを止め、伊黒はその隙に無惨の首元に日輪刀を突き刺した。さらに愈史郎の札を持った炭治郎も追いつき、無惨の反撃を受けながらもなんとかその札を伊黒と鏑丸に渡して視覚を共有させることに成功する。

伊黒は「炭治郎、感謝する」と感謝を示した後、炭治郎に無惨を挟むように指示し、「絶対にここから逃がすな!二人ならできる!」と話した。無惨は息切れをしており、体力の限界が迫っていた。

【原作】22巻196話「私は」~23巻198話「気付けば」
その後も炭治郎と共に攻撃を続けるが、無惨は強力な衝撃波の血鬼術を繰り出す。その攻撃を受けた伊黒たちは痙攣が止まらず、呼吸もままならなかった。その隙に逃げ出そうとする無惨に対し、善逸と伊之助が攻撃を繰り出して止めに入る。

炭治郎は血鬼術で神経系を狂わされているならば日輪刀で治せるのではないかと考え、自身の身体に日輪刀を突き刺して無惨の血鬼術を祓い、戦いに戻った。そして『日の呼吸 陽華突』を繰り出し、無惨に日輪刀を突き立てて壁に押し当てる。

無惨は逃れようとして炭治郎に攻撃を加えるが、伊黒、甘露寺、実弥が現れ、無惨の動きを封じた。

その時、遂に夜が明けた。

【原作】23巻199話「千年の夜明け」
夜が明けた瞬間、無惨は強烈な衝撃波を放ち、実弥や伊黒は吹き飛ばされてしまう。炭治郎は衝撃波により左腕を失いながらも、踏みとどまって日輪刀を赫刀に変えようとしていた。そこへ義勇が現れ、共に炭治郎の日輪刀を握って赫刀を顕現させた。

無惨は吐血しつつも、日光から自身の肉体を守るために肉の鎧によって瞬時に膨れ上がり、巨大な赤ん坊の姿になった。炭治郎はその赤ん坊の肉に呑まれてしまう。

赤ん坊は日に灼かれながらも逃走しようとし、生き残っていた鬼殺隊の隊士たちは赤ん坊を止めようと攻撃した。伊黒、実弥、義勇、悲鳴嶼も赤ん坊を逃さないように攻撃を仕掛けるが、赤ん坊は地中に潜って逃げ出そうとする。力が残っていなかった柱や鬼殺隊の隊士たちは諦めの気持ちを抱く。

その時、赤ん坊に呑まれていた炭治郎が日輪刀を握った。すると赤ん坊は血を吐いて絶叫した。そして赤ん坊の身体は日光に灼かれて消滅した。

【原作】23巻200話「勝利の代償」
無惨との戦いに勝利した事で鬼殺隊の面々は歓喜の声をあげた。そしてすぐに負傷者の治療が行われた。

伊黒は甘露寺を抱きかかえていた。甘露寺は「体が全然痛くないや…。もうすぐ私死ぬみたい…」と伊黒に話した。すると伊黒は「俺もすぐ死ぬだろう。君は独りじゃない」と甘露寺に告げた。
甘露寺は「伊黒さんには死んで欲しくないなぁ…。私あんまり役に立たなかったよね。ごめんね…」と言い涙を流した。伊黒は「そんなことはない。頼むからそんな風に言わないでくれ」と甘露寺と初めて会った時の話をした。

当時、甘露寺は産屋敷の家で迷っていたところを伊黒に助けられていた。伊黒は「あの日会った君があまりにも普通の女の子だったから俺は救われたんだ。ささいなことではしゃいで、鈴を転がすように笑い、柱になるまで苦しい試練もあっただろうにそれを少しも感じさせない。君と話しているととても楽しい。まるで自分も普通の青年になれたようで幸せだった。他の皆もきっと同じだったよ。底抜けに明るく優しい君はたくさんの人の心をも救済してる。胸を張れ。俺が誰にも文句は言わせない」と話した。

それを聞いた甘露寺は「わああん、嬉しいよぉ。わたしっ…私、伊黒さんが好き。伊黒さんと食べるご飯が一番美味しいの。だって伊黒さんすごく優しい目で私のこと見ててくれるんだもん。伊黒さん、伊黒さん、お願い。生まれ変われたら、また人間に生まれ変われたら、私のことお嫁さんにしてくれる?」と言って号泣した。
伊黒は「勿論だ。君が俺でいいと言ってくれるなら。絶対に君を幸せにする。今度こそ死なせない。必ず守る…」と言って甘露寺を抱きしめ、2人は息を引き取った。



-伊黒小芭内の過去-
 
伊黒の家系は女ばかりが生まれる家だった。伊黒は三百七十年振りに生まれた男であった。

伊黒は生まれたときからずっと牢の中に入れられていた。母や姉妹、叔母たちは猫なで声で、気色が悪いほど親切だった。彼女たちは毎日毎日、伊黒に食べ物を持ってきた。換気もできない部屋は油の匂いで充満し、伊黒は吐き気を催した。
夜になると上の部屋からは何か巨大な物が這い回る不気味な音がした。そして伊黒は粘りつくような視線を感じ、全身から汗が吹き出した。そんな日々を暮らし、伊黒は十二歳になった。

その日、伊黒は牢の外に初めて出された。伊黒が連れて行かれたのはきらびやかな一室だった。そこには蛇のような体を持つ鬼が御神体のように鎮座していた。伊黒は夜中に自身を見ていたのがこの蛇鬼だということを確信した。

鬼は「小さいねぇ。小さいねぇ。やっぱりもう少しだけ大きくしてからにしようかねぇ」と言った。

伊黒の一族はこの蛇鬼が人を殺して奪った金品で生活していた。蛇鬼は赤ん坊が大好物で、一族は金品を得る代わりに自分たちが生んだ赤ん坊を生贄として与えていた。伊黒は久方ぶりに生まれた男児だった上に、風変わりな目をしていたことで蛇鬼に気に入られ、喰える肉が増えるまで生かされていた。

伊黒はもう少しだけ生かされることになった。蛇鬼は口の形を自分と揃えると言って伊黒の口を斬り裂き、溢れ落ちる血を盃に溜めて飲んだ。牢に戻った伊黒は、逃げ出すために盗んだ簪(かんざし)で木の格子を削り出した。伊黒は気づかれるのではないか、と毎日神経をすり減らした。牢の中に迷い込んできた蛇・鏑丸だけが信用できる存在だった。

ある日の夜、伊黒は牢を抜けて外へ出た。蛇鬼は伊黒の脱走に気づき追跡を始めた。伊黒は蛇鬼に追いつかれ、自身の死を覚悟した。

その時、当時の炎柱の剣士が現れ、伊黒を救った。伊黒が脱走したことにより、一族のほとんどが蛇鬼により殺されていた。炎柱は伊黒と生き残った従姉妹を引き合わせた。

しかしその従姉妹は伊黒に対し「あんたのせいよ!あんたが逃げたせいでみんな殺されたのよ!五十人死んだわ!あんたが殺したのよ!生贄のくせに!大人しく喰われてりゃよかったのに!」と吐き捨てた。

いとこの罵詈雑言には正当性のかけらもなかったが、伊黒の心を抉った。伊黒は自身が逃げる事で親族がどうなるかを考えていないわけではなかった。しかし、伊黒は逃げることを決断した。伊黒は「屑の一族に生まれた俺もまた屑だ」と思った。


背負った業が深すぎて、伊黒は普通の人生を歩むことができなかった。伊黒は鬼殺隊に入って、やり場のない思いを全て鬼に向けた。ひたすら鬼を恨み、憎んだ。伊黒は誰かのために命をかけると、自分が何か少しだけ"いいもの"になれたような気がした。しかし、伊黒には、いつまでたっても恨みがましい目をして、どこにも行けないように自身に縋り付く五十人の女たちが見えていた。