-上弦の陸・堕姫と妓夫太郎-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 


― 堕 姫(だき) ―

鬼舞辻無惨配下、十二鬼月の一人
"上弦の陸"の数字を与えられ、その席位に従い右目に「陸」左目に「上弦」の文字が刻まれている。

鬼である正体を隠し、江戸時代の頃から吉原を初めとした様々な遊郭界隈を転々として名を馳せており、老いの無い美貌を疑われる頃には狩場を他に移し、数十年経って自身の事を覚えている者が消えた頃を見計らって、かつての狩場にまた戻ってくるという行動をローテーションで繰り返していた。

花魁として活動する時には、必ず『姫』と名のつく源氏名を名乗り、気に入らない事があると、首を傾けて下から睨めつけて来る独特の癖を持つ事なども、一部では語り継がれていた。
現在は、吉原遊郭の「京極屋」の看板である蕨姫花魁として評判を博している。

普段は花魁の恰好をしているが、鬼としての姿はランジェリーじみた露出度の高い衣装で、胴体に帯を巻き、三本歯の下駄を履いたセクシーな外見をしている。また、この時は右額や左頬に花の紋様が浮かび上がっている。

蕨姫花魁として活動する時などは黒髪だが、これは分身の帯が分離して弱体化している状態であり、分身の帯を取り込み完全体になると本来の髪色である白色に変化し、全身にヒビのような紋様も加わる。また、花魁時の帯は、少なくとも江戸時代より変わっていない。

 
**性 格**
性悪を通り越した極悪でかんしゃく持ちな性格。しゃくに障ると暴力や虐めで当たり散らす為「京極屋」では怪我人・足抜け・自殺者が後を絶たず、お付きの禿達や他の遊女はおろか、店主でさえも頭が上がらない程に、常に周囲の人々を戦々恐々とさせている。しかしながら、一番の売れっ子だけに誰も逆らえない――その恐ろしさと彼女が稼ぐ大金で誰もが見て見ぬふりをしていた。

その美しさに懸ける執着も相当なものであり、食べる人間は必ず美しい人間であることに拘っており、不細工な者や年老いた者は侮蔑して食おうとしない。それは必ずしも遊女だけではなく、己を狙ってやってきた鬼殺隊の隊士であっても、美しくなければ食べないことを公言していた。
「美しくて強い鬼は 何をしてもいい」という傲慢さを持っており自身の美しさと強さに酔いしれている。
 

 
**血鬼術『帯』**
自分の体から生成する帯を自由に操作する能力。
帯は硬質と柔軟性を併せ持ち、容易く人間や家屋などを損壊させる鋭さをもつ。
攻撃手段の他、帯の中に人間などを取り込み保存しておくこともできる。但し、保存されている人間は、日輪刀で帯を斬ることで解放することが可能。また帯を自分の分身として切り離して操作することも可能で、その際に帯には目と口が浮かび上がる。

遊郭に食料である人間を閉じ込めておく貯蔵庫を作る、遊郭を密かにつなぐ通路を作ると言った細工を施したり、自分に少しでも不信感を抱いた遊女は監視し、容赦なく始末すると言った搦め手を使い、鬼殺隊士を翻弄する。
長年遊郭に巣食っていたその身の隠し方は折り紙付きで、優秀な元忍である宇髄とその妻の三人のくノ一でさえ、その正体を掴み切れなかったほど。



-妓夫太郎(ぎゅうたろう)-
 
鬼舞辻無惨配下の精鋭『十二鬼月』の一人
2本の鎌を得物とすることから、相対したかまぼこ隊からは「鎌鬼」または「蟷螂」と呼ばれる。堕姫が手に負えなくなった事態が発生した場合に姿を現す。

彼こそが実力的には"真の上弦の陸"であり、「下弦の鬼」はおろか妹さえも比べ物にならない強さを誇り、113年もの間その地位に存在し続け、それまでに22人の柱を倒し喰らってきた実力者。

 
**容 姿**
ボサボサの髪や血走った目付きにギザギザした歯等、一目で「鬼」とわかる凶悪な風貌を持つ。顔や体のあちこちには血の染みのような痣があり、長身で筋肉質ながらガリガリに痩せ細った皮と骨ばかりの体型は人間時代からそうだったらしい。

ただ醜い痣と痩せすぎた体型を除く顔立ち自体はそれほど不細工ではなく、十分な食事さえ摂れる健全な環境で生まれ育っていればそれなりに丈夫な青年に成長したであろう。
上弦の証である文字の「上弦」は右目に、「陸」は左目に刻まれている。
 

 
**性 格**
奪われる前に奪い、取り立て、人にされて嫌だった事、苦しかった事は人にやって返す』を生き甲斐とする、非常に陰険な性格。劣悪な底辺環境で育ってきただけにとにかく嫉妬深く、少しでも自分たちより幸せそうな相手に一切の例外なく激しい憎悪を向ける。そして自分と妹を傷つける者は誰であろうと許さず報復する、どこまでもひねくれた信念の持ち主。

違うなあそれは 人にされて嫌だったこと苦しかったことを人にやって返して取り立てる
自分が不幸だった分は幸せな奴から取立てねぇと取り返せねえ
それが俺たちの生き方だからなあ 言いがかりをつけてくる奴は皆殺してきたんだよなあ
――これらの台詞は堕姫の体を通してしゃべっており、アニメ版では兄妹が同時に喋る形で演出されている。

語尾に「~なあ」「~なああ」とすごむようにかつ間延びした口調で話し、気が高ぶると出血するのもおかまいなしで身体をかきむしる。
再生力を交えて尚体を傷付ける姿は、さながら“鬼”気迫る憎悪そのものである。
 


**血鬼術『血鎌』**

自身の血を二振りの鎌に変化させて戦う、妓夫太郎の基本戦術。その刃には毒物全般に強い耐性持ちの宇髄天元でさえも刻一刻と弱っていく程に致死性が強い猛毒が付与されている。彼の使う血鬼術の全てに含まれている為、防御や回避に専念しなければ間違いなく毒で体を蝕まれる。だが即効性は高くなく、また真正面から殺しにいく自身の信念や戦い方とはやや噛み合っていない。



-遊 郭 編-
 
音柱・宇髄天元に頸を斬られた上に「上弦の鬼じゃない」と侮られた堕姫の泣き叫ぶ声に応え、兄・妓夫太郎がその姿を現す。現れるなり堕姫をあやしてやりながら一瞬で天元の背後に回り、天元を観察しながら妬み言を並べ始める。そこから天元がいる遊女屋の二階に逃げ遅れた遊女と客を急襲、そのまま戦闘に突入する。

天元は爆薬丸を使って床を吹き飛ばしつつ客と遊女を逃がすも、飛び血鎌による執拗な攻めと血鎌の毒によって徐々に体力を奪われていく。そこへ暴走した禰豆子を寝かしつけた炭次郎、及び天元の後を追ってきた善逸・伊之助が合流し、四対二での決戦へともつれ込む。
鬼兄妹の倒し方を天元が看破したことで、本格的な頸取り合戦の幕が上がる。毒で疲弊する天元と、堕姫との戦いによる消耗が激しい炭次郎を相手に圧倒する。堕姫もまた妓夫太郎から左眼を借り力を上げて善逸と伊之助を翻弄する。

飛び血鎌と帯の連携が戦場を縦横無尽に飛び交う中、雛鶴の忍具による無数の対鬼用の毒苦無による弾幕を展開。妓夫太郎の動きが鈍った隙に天元と炭次郎の連携が頸を狙う。それを解毒と脚再生で対応、「円斬旋回・飛び血鎌」によって弾き飛ばす。その後雛鶴に狙いを定め、顔を鷲掴みにして迫るも炭次郎に防がれ、隙を逃さず食らいついた天元との激闘の後、屋根から飛び降りて一対一の戦いへと移行。

そんな中でもかまぼこ隊の堕姫狙いを見逃さず、頸を取って離脱しようとした伊之助を背後から心臓へ鎌を一突き、さらに血鬼術で周囲一帯を吹き飛ばす。天元の左腕を斬り瀕死に追い込み、胸を刺された伊之助は虫の息、善逸も倒壊した家屋の下敷きと、鬼殺隊を壊滅寸前へと追いやる。

気絶から目を覚ましたばかりの炭次郎の指を折り、嘲笑と罵倒を浴びせる。その場から逃げ出した炭次郎を袋小路に追い込み、無様と笑いながら鬼に誘う。
だがその身を寄せた隙を狙われ渾身の頭突きを食らい、尻もちをついて立てなくなる。自身に起きた異変に「頭突きと同時に毒苦無を足に刺されていた」ことを悟る。すかさず頸を狙われるも、自身の硬度と血の刃で日輪刀を押し戻す。
 兄の異変に気付いた堕姫が救援に入ろうとした瞬間、瓦礫の下にいた善逸が復活して「雷の呼吸一ノ型 霹靂一閃・神速」で堕姫の予測をはるかに超える速度で頸を狙いに行く。

一方の妓夫太郎も炭次郎を始末しようと本気で襲い掛かるが、死んだふりで体力を回復させた天元に妨害される。そこから「天元の戦術思考<譜面>」によって、攻撃の律動を完全に読まれて五分の勝負に持ち込まれてしまう。

どちらも死力を尽くした勝負の中、あと一搾りの力の足りない善逸の下へ、心臓の位置をずらすという離れ業で一命を取り留めた伊之助が加勢、再び堕姫の頸を斬られてしまう。
そして妓夫太郎も炭次郎と天元との激しい激突の末、炭次郎の全身全霊を超える力によってついにその頸を刎ね落とされる。

だがその時既に「円斬旋回~」を放つ寸前であり、血鎌の毒で瀕死の炭次郎と天元の真横で、その肉体から周囲一帯を吹き飛ばすほどの血鎌が暴発する。

その後生死を確かめるため禰豆子に背負われて炭次郎が移動する中、死に際に頸だけで醜い兄妹喧嘩繰り広げていた――。
 「アンタみたいな醜いヤツが兄妹なわけない!」
「お前なんかいなけりゃ俺の人生はもっと違ってた なんで俺がお前の尻拭いばっかりしなきゃならねえんだ!!」
「お前なんて生まれてこなけりゃーー」
 
「嘘だよ」
「仲良くしよう この世でたった二人の兄弟なんだから」
「君たちのしたことは誰も許してくれない」
「殺してきたたくさんの人に恨まれ 憎まれて罵倒される」
「味方してくれる人なんていない」
「だからせめて二人だけは お互いを罵りあったらだめだ」

炭治郎に心にもない罵倒をしている事を察され諭される中、忘れていた妹の名前と過去を思い出す。

「梅!!」



-堕姫・妓夫太郎の過去-
【原作】11巻第96話「何度生まれ変わっても」

妓夫太郎が「他人から取り立てる」事にこだわるのは、彼の名前「妓夫」とも関係している。――妓夫とは遊郭にて客の呼び込みや勘定徴収、またそれに伴う掛け金の回収などを担当していた下働きの者達の役職名。

彼も遊郭に住む妓夫の一人であったが、親からも厄介者扱いされて名前すら与えられず、仕事における便宜上の役職がそのまま彼自身の「名前」となった経緯がある。彼の取り立て率は百二十%という、驚異で苛烈かつ必要以上に取り立て率であった「公式ファンブック」による。

そんな苛烈な妓夫太郎であったがその過去は凄惨の一言に尽きる。
生まれた当時から醜い姿をしており、生まれ育った羅生門河岸は遊郭の最下層。「子供など生きているだけで迷惑」とされ生まれてくる前からも、生まれてからも何度も殺されそうになったほどで、まともな親の愛情など今まで受けたこともなかった。
それ故、いつも垢とフケにまみれ、ノミだらけのひどい悪臭を漂わせていた。まして美貌が求められる遊郭街ではこと更に忌み嫌われ、親を含めた周囲から蔑まれ、外を歩けば石を投げられる、人間以下の暮らしを送っていた。

そんな彼の人生を変えたのは、最愛の妹・梅が生まれてからだった――。

母親の病名から梅(うめ)と名付けられていた。
その母親には生まれつきの白髪と目の色(青い目の持ち主だった)を気味悪がられ、手に掛けられそうになったところを兄・妓夫太郎に救われたこともある。妓夫太郎にとっては自分を慕い....ついて回り....離れると泣き喚く梅が可愛くて仕方なかった。

母親が梅に暴力を振るい剃刀で髪を切った日、妓夫太郎が怒り狂って暴れて以来、親子の力関係が変わり、母親は妓夫太郎に怯え、距離を取るようになる。醜い兄とは裏腹に、年端もいかないうちから大人をたじろがせるほどの美貌を持ち、道を歩いているだけで声をかけられ、笑って見せれば物を貰える程美しかった。それを自覚して上手く立ち回れるようになると飢えることもなくなる。
成長してからは遊女として働いていたが、梅が十三歳の時、兄を侮辱した客の侍に激怒して目玉を突いて失明させる事件を起こした。

その報復として生きたまま焼き殺されるという非情な罰を受け、虫の息の梅は客の侍と店の女将を殺した妓夫太郎に連れられ遁走。その道中で上弦の陸・童磨と出会った事で共に鬼となり生き延びた。

妓夫太郎曰く「素直で染まりやすい性格の持ち主。」その為、良家に生まれていれば上品な娘として幸せに暮らせたのではないか、上述した客の侍に従順にしていれば違った人生があったのではないか、「奪われる前に奪え」と教えて育った為にこうなってしまったのではないか、などの自分といたせいで良くない方へと向かわせてしまったのではないかというのが、兄の唯一の心残りだった。

鬼殺隊に敗れ頸だけになった時、暫く互いに兄と罵倒し合っていたが、討ち取った事を確認する為捜していた炭治郎に「兄妹で罵り合うな」と論され、炭治郎に強がりを見せるもすぐに本来の駄々っ子の甘えん坊に戻って、兄に甘えるかのように泣き喚きながら消滅していった。

その際、禰豆子が傍らで最期を見届けたが、激しく兄と自分を痛めつけた相手であるのにも関わらず、涙は見せなかったが、悲しげな面持ちで見つめていた。
兄共々肉体を失った後、自分を一人明るい方向に進ませて地獄に落ちようとする兄の背にしがみつき、
「離れない!絶対離れないから」「ずっと一緒にいるんだから!」
「何回生まれ変わってもアタシはお兄ちゃんの妹になる 絶対に!」と泣きじゃくり、
兄に背負われたまま共に暗い地獄の中に進んでいく。その姿は、どことなく彼らを倒した兄妹の在りし日の姿に似ていた。