-上弦の壱・黒死牟-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 


黒死牟(こくしぼう)は、鬼舞辻無惨の最古の配下にして最強の鬼「上弦の壱」。無惨がこの世で最も信を置く右腕である。

元々は戦国時代の武士なので侍の様な出で立ちをしており、服装は紫色の上着に黒い袴、長い黒髪を一つに束ねている。額や首元から頰にかけて炎の様な痣がある。
最大の特徴は見る者全てを恐怖させる三対の目で、席位に従い刻まれた右目の「壱」、左目の「上弦」の文字は真ん中の二つにある。


 
その寡黙で強烈な威圧感は、既に上弦の鬼と戦い勝利していた時透無一郎も「重厚な様 威厳すらある」「怖気が止まらない」と動揺し、獪岳は「あの体中の細胞が 絶叫して泣き出すような恐怖」と回想しており、劇中で対峙した多くの鬼殺隊士にすさまじい恐怖を与えている。
 
元々は戦国時代に武家の長男として生まれており、それは同時に安土桃山、江戸、そして明治を経て大正に至る約四百年もの間、“最強”の座に君臨していた事を意味する。

戦闘においても柱達が繰り出す攻撃を冷静に分析し、血鬼術と剣術を組みあわせ積み重ねた剣術を以て放たれた技に対応する剣士としての形質が強く表れている。また、鬼としては珍しく人間時代の記憶や人格を保っている。
 



鬼滅の刃での初登場は――
  
「上弦の陸」である妓夫太郎・堕姫兄妹の敗死により上弦の百十三年無敗の記録が破られ、上弦全員が無惨により無限城に召集された際にその姿を現した。
十二鬼月の序列を厳格に重んじており、「上弦の参」猗窩座があおってきた「上弦の弍」童磨に攻撃をした際には、その左腕を斬り飛ばして彼をたしなめた。
【原作】12巻第98話「上弦終結」

次に登場したのは、無限城編にて――
新たに「上弦の陸」の座に就いた獪岳(かいがく)の、自身が鬼になった際の回想。その中で、土下座して命乞いをする彼に無惨の血を与えて鬼へと変えている。
【原作】17巻145話「幸せの箱」



-他の鬼との関係-
 
**無惨との関係**
無惨は呼吸の剣士に興味を持ち、「痣」により寿命が僅かとなった黒死牟を勧誘し鬼にした。それから間もなく縁壱に敗れた為に、無惨は縁壱が死ぬまで表に姿を現さず、日の呼吸の剣士を根絶やしにする命を黒死牟に下している。
黒死牟の方は無惨のことを「あの御方」と呼び、無惨の血を「一滴たりとも零すこと罷り成らぬ有り難き血」と語るなど、明確に無惨を主、己を配下とする形を崩さずに仕えている。
**獪岳との関係**
鬼殺隊士であった獪岳と相対した時には、命乞いをする彼を殺さずに無惨の血を分け与えた。その後獪岳を上弦に推薦したのも黒死牟であり、どちらも自らの肉体から造られた刀を用いている。
**猗窩座との関係**
又、十二鬼月の中でも元から武人肌で“上弦の参”まで昇ってきた猗窩座を気に入っており、同じ武人として期待もしていたようで、過去に入れ替わりの血戦を申し込まれた時には嬉しかったらしく、勝利しているが喰わずに生かしておいた。入れ替わりの血戦を申し込まれたのは猗窩座を含めて数百年で三回のみ。
猗窩座の「俺は必ずお前を殺す」と挑発的な態度を取られた際には、「そうか…励む…ことだ…」と成長を楽しみにする素振りを見せ、無限城決戦で彼が敗死した事を知った際は、「敗北するとは…」「私に勝つのでは…なかったか…」「軟弱千万」と珍しく強い怒りと失望を見せた。



- 無 限 城 編 -

【原作】19巻164話「ちょっと力み過ぎただけ」
 
童磨が倒された直後、鳴女によって空間移動させられた時透無一郎と思いがけなく会う黒死牟――。
黒死牟は無一郎が「痣」を発現させたにも関わらず、瞬く間に左腕を切り落とした。彼を自分の子孫だと見抜きその力を認めた黒死牟は彼を鬼にするべく、奪い取った無一郎の刀を用いて城の柱に磔(はりつけ)にし、拘束してしまった。

【原作】19巻166話「本心」
同じく黒死牟のいる空間に転送され、不意を打とうと隠れていた不死川玄弥による銃撃の奇襲も、高速移動でかわしざまに左腕を切り落とし、返す刀で右腕を、そして一瞥(いちべつ)する間に胴を両断して戦闘不能に追い込んだ。

そして「貴様のような鬼擬き…生かしておく理由は無い…」とその首を切断しようとした瞬間、駆け付けた玄弥の兄・不死川実弥によりそれを阻止される。

【原作】19巻167話「願い」
~20巻174話「赤い月夜に見た悪夢」

その実弥との戦いでもかつて当時の風柱と手合わせした事を懐かしみ、実弥の稀血による酩酊すらも「久しぶりのほろ酔いで愉快」と評しながら余裕を保ったまま戦い、後一歩まで追い詰めるが、今度は悲鳴嶼行冥が現れてそれを阻止。

柱二人を相手にしても圧倒する程の戦闘能力を見せつけるが、二人も黒死牟の攻撃を即座に読んで対抗し、一進一退の激戦を繰り広げ悲鳴嶼が黒死牟の刀を折る事に成功。

しかし、血鬼術により刀を再生されてしまう。再び優位に立った黒死牟は、過去の記憶と照らし合わせて戦いを楽しむ余裕を見せていたものの、深手を負いながらも気力で喰らいつく実弥、悲鳴嶼の前に次第にその差を詰められていき、そして無力化したと思っていた無一郎と玄弥の決死の行動によって動きを止められた。

【原作】20巻174話「赤い月夜に見た悪夢」
予想外の窮地の中で思い出したのは――
今から数百年前、人を捨てて鬼になってから六十年近く経ったある夜に果たした弟・縁壱との再会。

齢八十以上にも関わらず全盛期と変わらぬ強さで追い詰められ、黒死牟を仕留める寸前に寿命で事切れてしまった。勝負は縁壱の勝ち逃げという形になってしまった。その屈辱から二度と負ける事なく勝ち続けるという修羅の道を誓った過去の記憶。


【原作】20巻175話「後生畏るべし」~176話「侍」
不敗への執念と憤怒で猛り狂い、全身から刃と斬撃(ざんげき)を突き出すというこれまでの剣士としてのプライドを捨てるかのような反撃で、玄弥・無一郎を両断するが、それをもかわした悲鳴嶼達によって遂にその頚をはね落とされる。
それでも尚、凄まじい執念で頚を再生させて、更に身体も大きな変化を見せる。人間達の手によって追い詰められた黒死牟が、どこまでも独り越えに超えて――誰よりも黒死牟自身が願い、遂に顕現させた誰にも勝る真の最強。

全身にまとった刃から無数の月輪を全周囲に放ち、如何なる存在をも歯牙にかけずして蹂躙(じゅうりん)するその光景を、彼は信じて疑わなかった。

【原作】20巻176話「侍」
~178話「手を伸ばしても手を伸ばしても」

しかし、ふと目に入った実弥の刀の刀身に写っていたのは──
何だ この 醜い姿は……
侍の姿か? これが……

異形の「侍」ではなく、醜い「化け物」の姿と成り果てた自分の姿。なおも攻撃を仕掛ける悲鳴嶼と実弥によって再び頸をはねられ、こんな事の為に何百年も生きてきたのかと自問をし、己は不死身の怪物ではなく全てを照らす日輪になりたかったとようやく知る。
その後、黒死牟は血鬼術を使って体を再生しようとするも、柱達の猛攻に再生が追い付かず、さらなる進化に完全に至る前に消滅していった。残った僅かな衣服の中には、かつて弟に渡し、その遺骸(なきがら)に残されていた音の鳴らない笛だけが転がっていた。

そして黒死牟の魂は暗闇の中、一人燃え盛る地獄の炎にその身を焼かれながら虚しく宙を掻き続け、己の強さの為に人である事も侍である事も捨てて自ら鬼となり、仲間も家族も子孫も切り捨ててきた男の最期には、誰も現れる事はなかった。



-黒死牟【継国厳勝】の過去-


【原作】20巻177話「弟」
時は戦国――
彼、継国巌勝は双子の兄としてこの世に生を受けた。
そして、弟の縁壱の方は生まれつき額に「痣」があり、それを忌み子とみなした父は継国家の対面のために緑壱を殺そうとした。

しかし、そのあまりにも惨い対応には、非常に穏やかな性格の持ち主で知られる母・朱乃も烈火の如く怒って真っ向から反発、周囲の反対を押し切ってまで縁壱を守る強い姿勢を見せ、おそらく初めて見るであろう妻の凄まじい権幕にさすがの父も根負けしたのか、「10歳になったら寺に出家させて僧にする」という条件で不問とした。
一方の兄の巌勝は弟の縁壱に対し、幼い頃の縁壱が三畳の部屋に閉じ置かれていたほど冷遇されていた事や、親離れ出来ないためか常日頃から母の左脇にしがみついていた姿を見てきたことから憐れみ、せめて兄である自分だけは弟のそばにいることを決意する。

緑壱と遊ぶことを嫌う父に殴られてもめげず、その翌日にも縁壱の元へ訪れ、「助けがほしいと思ったら吹け。すぐに兄さんが助けにくる」と、腫れた顔で笑いながら手作りの竹笛を渡した。

しかし、それまでずっと口を閉ざしてきた縁壱が突然、何の前ぶれもなく言葉を口にした日を境に彼の運命は狂いだす。

それから間もなく、生まれてから刀一つ握ったことのない弟がずば抜けた剣技を発揮し、自分がどれだけ努力しても勝てなかった指南役を失神させる事件が発生。巌勝は剣を極める事を望みその才覚も認められていた自分の努力など、弟と比べれば亀の歩みでしかない事を実感する。

弟である縁壱がずば抜けて剣技の才能に優れていることが周囲に知られ、継国家の跡継ぎは弟に、寺にやられるのは長男である巌勝になるのではと考える程であったが、――母の死後、跡継ぎの事情を前々から承知していた縁壱はこれ以上自分のせいで家に迷惑をかけないために一人出奔する。
 
その時遺された母親の日記の記述では――
縁壱が母にしがみついていたわけではなく、病魔に蝕まれて身体が不自由な母を支えていた事を知り、跡継ぎとして育てられた自分より劣っているという思い込みから憐れんでいた弟が実際は自分より心身共に優れていた事を知る。

【原作】20巻178話「手を伸ばしても手を伸ばしても」
皮肉にも忽然と縁壱が姿を消したことで跡継ぎ問題は解決し、彼の中にある縁壱への憎悪や嫉妬は一旦は治まった様に見え、十数年ほど緩やかな時間が流れる中で妻を娶り、子供を儲けている。

そんな折、鬼狩りとして活躍していた縁壱によって鬼から救われる形で二人は再会することになった。
十数年の時を経て優れた剣技と人格を持つ人物となって兄の巌勝の前に現れた弟の縁壱に対し、巌勝の胸にはかつての嫉妬と憎悪の炎が燃え上がる。

その強さと剣技を手に入れようと、今まで持ち得た平穏な生活の全てを捨て去り、巌勝は縁壱と同じく鬼狩りの道へと足を踏み入れる。尚、表向きは殺された部下達の仇討ちという名目で鬼殺隊に入った模様。

全集中の呼吸を学び「痣」を発現するまでに至るものの、それでも「日の呼吸」には遠く及ばず、そればかりか「痣」を発現させた者は二十五歳になる頃には死亡するという副作用までも見つかってしまう。鬼狩りとなった彼が知ったのは最早縁壱を越えるどころか、その為の鍛錬の時間すら残されていないという現実であった。
ならば鬼になればよいではないか
やがて彼は、鬼狩りの剣士が使う全集中の呼吸に興味を持っていた鬼舞辻無惨と出会いそそのかされる。無限の時の中で修練を積めば、いずれは縁壱を超えられる。全てのしがらみから解放されると考えた巌勝は、鬼狩りの頭である当時の産屋敷家当主を殺害して仲間の鬼狩り達を裏切り、無惨の血によって鬼となり、鬼狩りの剣士から新たな無惨の部下「黒死牟」へと生まれ変わった
――それから60年後、縁壱は黒死牟の目の前に現れる。痣者でありながらも、八十を超え年老いた姿となって表れた弟は涙を流しながら言う。
「お労しや兄上」
自分より遥かに老いた姿の弟にそう言われた黒死牟は、動揺を覚えながらも剣を構え、そこで再び縁壱という剣士の底知れない強さを知ることになる。鬼よりも弱い人間のままであるはずの弟は、あっさりと自分を死の淵へと追い詰め、焦りと嫉妬に身を焼かれながら、あと一撃で死ぬと実感するところまで追いつめられる。

しかし、その前に縁壱は寿命を迎えてしまい、討ち込みの構えを取り黒死牟と相対した姿のまま死んでいた。これまでより強い憎しみを込め逝った弟の骸を斬り捨てたが、その死体から転がり落ちたのは幼い頃に縁壱にあげた笛であり、その事を知った黒死牟は涙を流した。
その後は、無惨と共に「日の呼吸狩り」を行い、日の呼吸を知る者や縁壱の関係者達を次々と殺害して、日の呼吸や痣に関する技術や知識を失伝させ、痣の代償によって次々と柱が死んだ影響もあって弱体化していた当時の鬼殺隊を壊滅寸前まで追い込んだ。

私は一体何の為に生まれて来たのだ 教えてくれ 縁壱

家も、妻子も、仲間も、人間や侍である事さえも捨て去り、それでも尚も強さに焦がれ、求め続けた鬼は、結局は何一つ手に入れる事はできなかった。
柱達に倒された黒死牟は灰となって消えていきながらも、その懐にはかつての縁壱に渡した笛を持っていた。

→「弟・継国縁壱から見た兄・厳勝