-霞柱・時透無一郎-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 


時透無一郎(ときとうむいちろう)は鬼殺隊の頂点に立つ剣士「柱」の一人。称号は「霞柱」で、柱の中では最年少。
霞のように朧げな意志を持つ天才剣士。

言葉こそきついものの、無辜の民を守る鬼殺隊としての使命感・責任感は強く、鬼の攻撃から非戦闘員を庇う際には躊躇いなく自身を盾にするなど、幼いながらも鬼殺隊の柱として相応しい人物。

また、お供の鎹鴉によると、日の呼吸の使い手の末裔であるらしく、その実力は未だに未知数。

一方で、過去の壮絶な経験により記憶喪失となっており、さらに頭に霞がかかったように物事をすぐに忘れてしまうという後遺症を負っている。その為に「自分の信じた道を進めば失った記憶は必ず戻る」と励ましてくれた産屋敷の存在とその言葉を心の支えにしており、彼が認めてくれた柱としてその責務を果たすという意思がとても強い。



―上弦の伍・玉壺を一人で撃破する―
~刀鍛冶の里編~
【原作】12巻第101話「内緒話」
~15巻第125話「迫る夜明け」

 
炭治郎が刀鍛冶の里を訪れた時、時透無一郎も里に来ていた。
炭治郎が刀鍛冶の鋼鐵塚を探していた時、『始まりの剣士』の動きを再現したという『縁壱零式』と訓練を行うため、縁壱零式を起動させるための鍵を持っている小鉄という少年に迫っていた。

小鉄が鍵を渡そうとしないのを見ると、問答無用で暴力を振るい、それを看過出来ない炭治郎が割って入る。しかし、その炭治郎の腹部にも一撃を放つ。

小鉄が縁壱零式が壊れそうなことを説明するが、無一郎は「柱の時間と君たちの時間は全く価値が違う。少し考えればわかるよね?刀鍛冶は戦えない。人の命を救えない。武器を作るしか能がないから。」と言い放ち、鍵を要求した。それを聞いた炭治郎が時透に反論するが、時透は炭治郎を気絶させ、鍵を奪っていってしまう。
 
その後、自身の担当の刀鍛冶である鉄穴森を探しに炭治郎の元を訪れる。炭治郎が「一緒に探そうか?」と申し出ると、時透は「なんでそんなに人を構うの?」と問う。すると炭治郎は「人のためにすることは結局、巡り巡って自分のためにもなっているものだし、俺も行こうと思ってたからちょうどいいんだよ。」と言って笑った。それを聞いた無一郎は呆気にとられたような顔で「えっ?何?今何て言ったの?今…今…」と言った。
その時、上弦の肆である半天狗が襖を開けて部屋に入って来て、戦闘となる。

無一郎の攻撃は一度は避けられるものの、二撃目で半天狗の頸を斬り落とした。しかし、半天狗は追い詰められれば追い詰められるほど強くなる鬼で、斬り離した頭と胴体が『積怒』と『可楽』という二匹の鬼に変化した。

無一郎は可楽が持っていた天狗の団扇により突風を起こされ、遥か彼方へ飛ばされてしまう。
 
無一郎は一刻も早く炭治郎の元へ戻ろうとするが、そこで魚のような化物に襲われている小鉄を目にする。無一郎は小鉄を助けるより、半天狗を討つ事の方を優先しようとするが、その時「人のためにすることは巡り巡って自分のために」という炭治郎の言葉を思い出し、小鉄を救った。

小鉄は他の刀鍛冶を救うように懇願し、無一郎はそれを拒否しようとする。しかし、無一郎は脳裏に「失った記憶は必ず戻る。心配いらない。きっかけを見落とさないことだ。ささいな事柄が始まりとなり君の頭の中の霞を鮮やかに晴らしてくれるよ。」と話す産屋敷耀哉の姿を見る。

そして刀鍛冶を救いに向かった先で上弦の伍である玉壺と遭遇する。
玉壺は芸術家を気取っており、刀鍛冶職人に刀を突き刺して壺に活けた作品を時透に見せた。それを見た時透は「いい加減にしろよクソ野郎が。」と言って斬りかかる。それをかわした玉壺は壺から金魚を生み出す。

金魚は麻痺毒の塗られた針を吐き出した。無一郎は刀鍛冶職人をかばって攻撃を受ける。それを見た玉壺は「本当に滑稽だ。つまらない命を救って、つまらない場所で命を落とす。」と言う。それを聞いた無一郎は、以前にも同じようなことを言われたような気がした。

無一郎は一瞬で移動して玉壺の頸に日輪刀を振り下ろすが、玉壺は敵を水の壺の中へ閉じ込める血鬼術『水獄鉢』を繰り出した。玉壺は刀鍛冶職人を殺害するためにどこかへ行ってしまう。
 
無一郎は肺に残った空気を使って『霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞』を使うが、水獄鉢を破ることはできなかった。無一郎は諦めようとするが、小鉄が無一郎を助けようとする。小鉄は玉壺が生み出した化物に傷つけられながらも、無一郎を封じ込める壺に空気を吹き込んだ。

無一郎はその空気を利用して『霞の呼吸 弐ノ型 八重霞』を繰り出して水獄鉢を脱する。水獄鉢の中で無一郎は忘れていた記憶を思い出していた。
→「時透無一郎の過去
 
玉壺が炭治郎の刀鍛冶である鋼鐵塚を殺そうとしているところに無一郎が現れる。無一郎は痣を発現していた。

玉壺は壺から蛸の足を無数に出し、無一郎を一度は拘束するが、刀鍛冶から自身の刀をもらった無一郎は『霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海』で蛸足を斬り捨てて玉壺に迫る。

玉壺は壺から壺へ瞬間移動できる能力を持っていたが、無一郎の素早い攻撃は玉壺の頸に傷を負わせた。玉壺は一万匹もの肉を喰らう魚を壺から吐き出す血鬼術『一万滑空粘魚』を繰り出すが、無一郎は『霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消』で全ての魚を斬り落とした。すると玉壺は脱皮をし、真の姿を見せる。
 
脱皮した玉壺の体は金剛石よりも硬い鱗で覆われていた。さらに玉壺の拳は触れたものを魚に変える能力を持っていた。

玉壺は鱗を打ち付けて縦横無尽に動き回る血鬼術『陣殺魚鱗』で攻撃しようとするが、無一郎は『霞の呼吸 漆ノ型 朧』を繰り出す。『霞の呼吸 漆ノ型 朧』は動きに緩急をつけて敵を撹乱する技である。玉壺は無一郎を捉えられず、まさに霞に巻かれたようだった。
 
無一郎は「ねえ君は、君はさ、なんで自分だけが本気じゃないと思ったの?」と言って玉壺の頸を斬り落とした。玉壺は頸が落ちて無一郎を見上げるまで、頸を斬られたことに気づいていなかった。

無一郎は転がった玉壺の頭に「お終いだね。さようなら。お前はもう二度と生まれて来なくていいからね。」と告げた。

その後、半天狗をあと一歩の所まで追い詰めていた炭治郎の元へ現れ、鋼鐵塚が研いでいた日輪刀を炭治郎へ投げて渡す。炭治郎はその刀で半天狗の頸を落とした。



―上弦の壱・黒死牟との戦い―
~無 限 城 編~
【原作】19巻第164話「ちょっと力み過ぎただり」
~21巻第179話「兄を想い弟を想い」

 
柱の中で一番才覚に恵まれているであろう無一郎が「刀鍛冶の里」で痣を発現した状態だったが、経験の浅さから血鬼術による不可知の攻撃までは見切る事ができなかった。左手首を斬り落とされた上に磔(はりつけ)にさせられるが、駆け付けた玄弥、実弥、悲鳴嶼により何とか危機を脱する。

しかし、宇髄の様に体格に恵まれていない無一郎ではこのままいくと失血死は確実だったため、玄弥に「俺が上弦の壱の動きを止めたら俺ごと撃っていい」と頼み捨て身の特攻に臨む。

無一郎が透き通る世界を感知し始め、刀を胴に突き刺し、更に玄弥が発現させた血鬼術により黒死牟は動きを封じられ形勢逆転かと思われたその時、黒死牟の全身から刃を出し全方向へ斬撃を飛ばすというまさかの反撃を喰らい、無一郎は上半身と下半身を切断されてしまう。

本来なら即死でもおかしくなかったが、勝利への執念を燃やす無一郎は意地でも刀から手を離さず、死に瀕した際に発揮される万力によって赫灼の刃を発現。黒死牟に致命傷を与える事に成功する。
何とか戦いには勝利したが、その代償はあまりにも大きく黒死牟消滅時にはもう無一郎は目を開けたまま事切れていた。
そして彼は、兄の有一郎と再会を果たす。

無駄死にだ こんなんじゃ何の為にお前が生まれたのかわからないじゃないか
僕は 幸せになる為に生まれてきたんだ
泣きながら訴える有一郎に無一郎はそう返す。
だけど俺は 無一郎に死なないで欲しかったんだ......無一郎だけは......」
有一郎は更に泣き崩れ、双子は抱擁を交わしたのだった。
無一郎の訃報は玄弥の訃報と同時に他の隊士達へと告げられ、無一郎と打ち解けていた炭治郎も涙を流していた。



-時透無一郎の過去-
【原作】14巻第118話「無一郎の無」
「思い出したよ炭治郎
僕の父は君と同じ赤い瞳の人だった」


父は杣人(そまびと)で、無一郎も父と一緒に木を斬る仕事の手伝いをしていました。無一郎は父・母・兄の4人家族で次男として生まれ、兄とは双子です。

無一郎が10歳の時――母は風邪をこじらせて肺炎になってしまい、父は母の病気を治すための薬草を取りに出かけましたが、崖から落ちて亡くなってしまいます。母も肺炎が悪化してしまい、そのまま亡くなってしまいました。

両親を失ってしまった無一郎は、その後唯一残った肉親である双子の兄・有一郎とともに暮らす事になった。

「両親が死んだのは十歳の時だ 
 十歳で僕は一人になった
 ……いや 違う 
 一人になったのは十一歳の時だ
 僕は双子だった」



無一郎は優しい性格をしており、誰かを助けることは巡り巡って自分のためになるという父の言葉を大切にしていました。
しかし、兄・有一郎は無一郎と瓜二つの外見をしていたが性格は正反対で、言葉がきつく冷酷だった。

無一郎はそんな兄に対して反論しますが、有一郎は自分は事実しか言っていないと冷たく言い放ちます。あまりにもきつく当たられていたため、自分は兄に嫌われていると思うようになり兄との生活に息苦しさを感じるようになりました。

双子の家をお館様の奥様である「あまね」が訪れます。そこで自分たちは「始まりの呼吸の剣士の子孫」であるということを伝えられますが、有一郎はあまねに暴言を吐き、追い返してしまいます。

自分たちはすごい人たちの子孫であることを知った無一郎は、剣士になろうと有一郎に話します。無一郎の言葉を遮り、有一郎は無一郎の考え方は楽観的過ぎると強く否定します。

双子は次第にすれ違い、口を聞かなくなってしまいます。その後も足繁く通うあまねを有一郎が追い返し続け、ある日、彼女に水を浴びせた事で喧嘩したのが双子の最後の会話となりました。
ある夏の熱帯夜に戸を開放していた寝ていた双子の家を鬼が襲撃した。兄に致命傷を負わせた鬼の「いてもいなくても変わらないようなつまらない命なんだからよ」の言葉に未だかつてない激しい怒りを覚えた無一郎は我を忘れ恐るべき力で鬼を返り討ちにする。

日が明けるまで一晩中応戦した結果、日光により鬼は消滅――。有一郎はまだ生きていましたが、もう瀕死の状態でした。今まで無一郎にきつく当たってきた有一郎でしたが、実は誰よりも無一郎のことを想っていました。「無一郎の無は無限の無」という言葉を残し逝ってしまいました
有一郎は無一郎に危険な目に合ってほしくない、死んでほしくない――と思っていたから鬼殺隊に入ることにひどく反対していました。
どんなに正しく真っ当に生きていても、誰も守ってはくれないと有一郎は考えており、それならば弟は自分が守らないといけないと思っていたのです。
有一郎の最後の言葉を聞き、無一郎は兄が自分をどう思っていたのかを知り涙を流しました。

**鬼殺隊に入ったきっかけ**

【原作】14巻第121話「異常事態」

有一郎が亡くなり、蛆が湧いて腐っていく様子をそばで見ていた無一郎ですが、自身にも蛆が湧き始めてしまいます。そんな時にあまねが再度2人のもとに訪れ、懸命な治療により無一郎は一命を取り留めました。

この出来事で心身共に深いショックを受け、一時は生死の境をさまよった無一郎はその後遺症で記憶喪失となり、さらに新しい事を覚えている事もままならない状態となってしまいました。

そのまま産屋敷家に保護され、鬼殺隊に入って僅か二ヶ月という驚異的なスピードで柱となった。
――他の隊士達は基本的に自ら志願して鬼殺隊に入隊しており、産屋敷自らが勧誘にくるのは異例のこと――
刀鍛冶の里」での戦いの後、記憶を取り戻した無一郎は、かつて記憶喪失だった頃の自分を有一郎に似ていた気がすると語っています。

無一郎は記憶が戻る前は少しキツイ性格であり、それは無意識に兄である有一郎のことを覚えており、兄のように振舞っていたためかもしれません。無一郎自身はこの事を記憶が安定しない頃の自分を兄が守ってくれていたように感じて嬉しかったようでした。

無一郎が「情けは人の為ならず誰かの為に何かしてもろくな事にならない」と言い、「人の為にすることは巡り巡って自分の為になるって意味だよ」と炭治郎が言う――
この会話は【原作】12巻第106話「敵襲」での炭治郎とのやりとりと酷似しており、この時の無一郎の動揺はこの過去に触れた為である。結果的にこの言葉がきっかけで小鉄を救う事となり、記憶が甦る道筋を作りました。

本来の彼は、他人の為になら無限の力を引き出す事ができる優しい性格をしています。記憶を取り戻した後の無一郎の一人称は、親しい相手の前では「僕」、戦闘時などで気が立っている時は「俺」になるようになり、以前のような不安定さは見られないまま、双子どちらの要素も併せ持った性格となりました。
【原作】19巻第165話「愕然と戦慄く」にて上弦の壱・黒死牟と対峙。その際、彼の末裔である事が明かされた。

◇また、黒死牟とその弟・継国縁壱時透兄弟と同じ双子の兄弟であった事が明らかとなった。

◇縁壱は子孫を残していない為、無一郎が日の呼吸の剣士の血を引く最後の一人という事になる。