鬼滅の刃-無限城編


-最 終 決 戦-

***ネタバレ知りたくない方はご注意ください*** 




【原作】23巻第201話「鬼の王」
死ぬ間際、無惨は幼少の頃を思い出していた。無惨は生まれつき身体が弱く、母親の胎内で何度も心臓が止まり、生まれた時には脈も呼吸もなく、荼毘に付されようという際に必死に産声をあげた。それから無惨は自身が強く念じたことを必ず叶え、実行してきた。しかし、一個体にできることには限界があった。

――自身の死を悟った無惨は「産屋敷、お前の言ったことは正しかったと認めざるを得ない。生き物は例外なく死ぬ。想いこそが永遠であり不滅。確かにそうだった。殺した人間など誰一人覚えていない。肉体は死ねば終わり。だがどうだ、想いは受け継がれ、決して滅ばず、この私すらも打ち負かしたのだ」という想いを抱いた。無惨はその事実を目の当たりにして感動し、涙を流していた。

自分の強さに自惚れていたかつての無惨では、このような心持ちになることはあり得なかった。無惨は死の直前に至って、自分の夢を他人に継承させる尊さを心の底から理解した――。

無惨を倒すという目的を死んでも諦めずに想いを継いできた鬼狩りたち。その姿は尊く憧れるべきものだと素直に受け入れた無惨は、自分も彼らと同じく他者へ継承していくことで永遠となれると確信する。

だから、自分も鬼狩りを殺し尽くすという夢は死んでも諦めてはいけないのだと――。その夢を他人に託すべきなのだと――。無惨は、それが本当に正しいことなのだと心の底から信じるに至った。

無惨は死ぬ直前に、肉の鎧に取り込んでいた自身の血液全てを炭治郎に流し込んだ。無惨は、何もかも悟りきった慈悲さえ感じさせる穏やかな心持ちで、炭治郎に全ての力を与えた。最強の鬼である自分を追い詰めた炭治郎こそが、鬼の力を託す「継承者」に相応しいと信じて――。自分には出来なかったことも成し遂げられると祈りという呪いを込めて。

「私の想いも また不滅なのだ――永遠なのだ」
「私はこの子供に 想いの全てを 託すことにする」

【原作】23巻第201話「鬼の王」
戦闘終了後、消えた無惨の身体から出てきた炭治郎の亡骸を前に悲しむ冨岡義勇らであったが、直後に死んだと思われていた炭治郎が覚醒、さらにちぎれていたはずの腕が再生し、その場に居た隠の一人に襲いかかろうとした。

本来、呼吸を極めた剣士の身体は鬼にはなり難いのだが、無惨は己の全ての血と細胞を流し込む事で炭治郎を強引に鬼化させた。そしてさらに本来であれば、無惨の細胞を大量に流し込まれた者は変化に耐えきれずに肉体が崩壊して死亡するのだが、炭治郎は無惨の期待通りその大量の血に順応してみせて、その結果無惨の言っていた「鬼の王」として蘇った。

無惨によって作られた全ての鬼は、無惨が死ねば残らず死滅するのだが、「鬼の王」は無惨の全ての力を継承してそれに順応して生まれた「新たなる鬼の始祖」である。故に無惨が死んだ後も独立して生き残り、「無惨の意思を継ぐ者」として活動とさらなる進化を続ける。

かつて産屋敷耀哉は、自分が死ぬ直前に無惨に対して、人の想いは継承できるからこそ永遠だと告げた。無惨がこのような最後の手段を取るに至ったのは、無惨が産屋敷の言葉を心の底から認めたからだろう。
鬼になった直後で飢餓状態に陥って理性を失い、涎を垂らしながら義勇や隠の面々に躊躇なく襲いかかる炭治郎に対し、義勇は悔し涙を浮かべながらも「炭治郎が人を殺す前に」「炭治郎のまま死んでくれ」と彼の抹殺を即断。

自分を含めて無惨および上弦との戦いでもはやまともに戦える者がほとんどいない今の鬼殺隊の戦力ではその頚を斬って殺すことは困難と判断し、無惨と同じように太陽の光で焼き殺そうと炭治郎を日向で拘束する。

しかし、炭治郎に太陽は効かなかった。
最初こそ日光で皮膚が焼け付いていたが、それもほんの数秒で停止。

無惨は後に太陽光を克服して見せた禰豆子と血を分けた兄にして、「日の呼吸(ヒノカミ神楽)」を体得した炭治郎ならば、自身が鬼となっても妹と同じように陽光を克服できるだろうと目算、その予測は見事に的中。

まさかの戦友の変貌に善逸は為す術もなくただ絶望の言葉を零し、伊之助も現場に駆けつけ状況を即理解し炭治郎の頚を斬ろうとするが、彼との過去のやり取りを思い出して剣が鈍り、泣きながら「斬れない」とその悲痛な心情を吐露した。

【原作】23巻第202話「帰ろう」
しかし炭治郎が伊之助に襲い掛かる寸前で、遂に人間とへと戻った禰豆子が駆け付ける。禰豆子は兄にしがみ付きながら「家に帰ろう」と必死に呼びかけ、これ以上皆を襲うのを喰い止めようとした。

そんな禰豆子や善逸と伊之助の叫びも虚しく、炭治郎は禰豆子を傷つけ仲間達に襲い掛かる。その状況を見た義勇は禰豆子に噛み付いて人の血肉の味を覚え、なおかつ目の前に血の滴る禰豆子がいるにも関わらず喰おうとしない事で、炭治郎もまた禰豆子と同様に抗っているのではないかと気付く。

その時現れたカナヲが、残された左目で「終の型・彼岸朱眼」を使い、傷を負わされながらも、しのぶから万が一に備えて預けられていた「鬼を人間に戻す薬」を炭治郎に注入――この薬は珠世が作った3つの「鬼を人間に戻す薬」とは別に、しのぶが藤の花から作った物である。

動きを止めた炭治郎は、カナヲの「禰豆子ちゃん泣かせちゃ駄目だよ・・・」という言葉に反応を見せた。

【原作】23巻第203話「数多の呼び水」
「お願いします 神様」
「家に帰してください」
「俺は妹と家に帰りたいだけなんです」

カナヲの活躍によって、鬼の肉体の奥底に閉じ込められた炭治郎の意識が目を覚ますが、ただただ家に帰る事だけを望む炭治郎に無惨の肉片が語りかける。

「帰ってどうなる」
「家族は皆死んだ」
「死骸が埋まっているだけの家に帰ってどうなる」

炭治郎は家族との「幸せな日々」の思い出が残っている――そしてそれらは自分と禰豆子が生きている限りは消えないのだと無惨を振り切ろうとするが、無惨は「禰豆子は死んだ お前が殺した」と炭治郎を引き留めようと嘘を吐く。

しかし失った両親や兄弟たちに背を押されながらなおも無惨の支配から逃れようとする炭治郎に、さらに無惨は心を砕こうと辛辣な言葉を投げかけ続ける。

「血の匂いがするだろう、仲間たちの。お前がやったのだ」
「恨まれているぞ 誰もお前が戻ることを望んでいない」
「謝っても許されない」

それでも「みんなが俺を心配してくれてる 匂いでわかる」と決して折れない炭治郎に無惨は業を煮やし、痣の寿命の話を持ち出して炭治郎を説得しようとする。

「黙れ お前は私の意志を継ぐ者」
「前を向くな 人を信じるな 希望を見出すな」
「鬼でなくなれば数年の内に死ぬのだぞ 痣の代償を払わねばならぬ」
「自分のことだけを考えろ 目の前にある無限の命を掴み取れ」

だがそれすらも炭治郎は「無限の命なんか少しも欲しくない いらない」と撥ねのける。
そんな炭治郎に無惨は吐き捨てるようにこう言った。

「屑め」
「お前だけ生き残るのか?大勢の者が死んだというのに」
「お前だけが何も失わずのうのうと生き残るのか?」

炭治郎の自責の念に訴えかけようとした無惨の言葉は、炭治郎の心を挫きかける。

【原作】23巻第203話「数多の呼び水」
その時だった――炭治郎の背中を押す7人の腕。かつて炭治郎を救い、あるいは救われ、共に戦い、そして命を落とした勇敢な剣士達が、今再び炭治郎を支えていた。

「こんなものお前の妄想だ 恥を知れ!やめろ」と焦る無惨を尻目に、炭治郎は懐かしい匂いを感じとる。

「しのぶさんの匂いがする いや…これは…藤の花の匂いか…」

いつの間にか炭治郎の頭上一面に咲き乱れていた藤の花。そこから差し伸ばされる手は人間に戻った禰豆子の手、そして善逸、伊之助、義勇ら多くの仲間達の手だった。

「お兄ちゃん 帰ろう」

【原作】23巻第203話「数多の呼び水」
天上へと引き上げられていく炭治郎にしがみつきながらなおも叫び続ける無惨。

「手を離せ こっちに戻れ!」
「太陽すら克服したというのに!」
「死んだ者達の憎しみの声が聞こえないのか‼︎」
「何故お前だけが生き残るんだと叫んでいるぞ 何故自分たちは失ったのにお前だけが…」

だが炭治郎はそんな無惨の自分勝手な言葉を「(みんなは)自分ではない誰かのために命を懸けられる人たちなんだ」と一蹴する。

もはや無惨は炭治郎にしがみつく事すら出来ず、取り残されてただ懇願する事しか出来ない。

そしてそんな無惨の言葉にもはや炭治郎は応える事すらなく、そのまま藤の花から差し出された幾人もの手に引き上げられていった。

「炭治郎待て‼︎ 待ってくれ頼む‼︎ 私の意志を思いを継いでくれお前が‼︎」
「お前にしかできない‼︎ お前は神に選ばれし者だというのがわからないのか‼︎」
「お前ならなれる‼︎ 完璧な…究極の生物に‼︎」
「炭治郎 炭治郎行くな‼︎」
「私を置いて行くなアアアア!!」

【原作】23巻第203話「数多の呼び水」
炭治郎が目を覚ますと、そこにいたのは人間に戻った禰豆子、そして死闘を共に戦い抜いた仲間達だった。

自身が鬼になってしまい禰豆子を、そして仲間を傷つけてしまった事を謝る炭治郎に、やっといつもの炭治郎が戻ってきてくれたのだと歓喜に沸く禰豆子と仲間達。

こうして炭治郎に自身の歪んだ意志を押し付け「鬼の王にしようとした無惨の目論見」は潰え、全ては終わり平和が訪れた。